補助金の申請支援を事務所の業務にするとき、最初に確かめるべきことは「事務所がどこまで手を出してよいか」です。令和8年1月1日に施行された改正行政書士法は、行政書士・行政書士法人でない者が、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て、官公署に提出する書類の作成を業として行うことを制限する趣旨を条文に明示しました。さらに補助金の公募要領は、申請は申請者自身が行うこと、支援者の名称と報酬を申告することを求めています。

つまり、事務所の役割は「申請を代わりに済ませること」ではなく、事業者が自分で計画を立て、自分で申請し、採択後の手続きを最後までやり切れるように支えることです。以下、総務省の通知と、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(以下「ものづくり補助金」)の第23次公募要領(2026年2月6日公表)をもとに、相談から採択後の報告までの流れを整理します。補助金ごとの決まりは公募回によって変わるため、実際の支援ではその回の公募要領で確かめてください。


1. 事務所が行える業務の範囲

行政書士法第19条(令和8年1月1日施行)

改正後の行政書士法第19条第1項は、次のように定めています。

行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。(ただし書あり)

総務省の「行政書士法の一部を改正する法律の公布について(通知)」(令和7年6月13日 総行行第281号)は、この改正の趣旨を、「手数料」や「コンサルタント料」等どのような名目であっても、対価を受領して、業として、官公署に提出する書類等を作成することは違法であるという現行法の解釈を条文に明示するものと説明しています。違反には1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が定められ(第21条の2)、法人の従業者が違反した場合は法人も罰金の対象になります(第23条の3)。

社会保険労務士法第27条

厚生労働省所管の労働社会保険諸法令にもとづく申請書等の作成と提出の代行は、社会保険労務士法第2条第1項第1号・第1号の2の事務で、第27条により、社会保険労務士・社会保険労務士法人でない者が他人の求めに応じ報酬を得て業として行うことはできません。経済産業省系の補助金と厚生労働省系の助成金では、根拠となる法令と、関われる資格が違うことに注意してください。

事務所の資格ごとの整理

事務所考え方
行政書士官公署に提出する書類の作成は行政書士の業務(行政書士法第1条の3)。ただし他の法律で制限される書類は除く
社会保険労務士労働社会保険諸法令にもとづく申請書等の作成・提出代行は社労士の業務(社労士法第2条)
税理士・中小企業診断士など経営の状況の分析や事業計画への助言は行えるが、報酬を得て申請書類そのものを作成することは行政書士法第19条との関係を確かめる必要がある

どの行為が「書類の作成」に当たるかの線引きは個別の判断になります。判断に迷う場合は、所属する士業の会や、補助金の所管官庁に確認してから引き受けてください。


2. 公募要領が求める「申請者自身」の原則

ものづくり補助金の第23次公募要領は、申請の主体について次のように定めています。

項目公募要領の記述(要旨)
申請の方法電子申請システムで受け付け、GビズIDプライムアカウントが必要
申請の主体申請者自身が内容を理解・確認のうえ、申請者自身が申請する。電子申請システムには代理申請の委任関係を管理する機能はない。正当な事由なく申請者自身による申請と認められない場合は不採択
主体性GビズIDを他者に貸し出す、他者が取得したGビズIDを使う、事務局との窓口担当者を外部支援機関等に任せるなどの行為は主体的でないとみなす
支援者の申告認定経営革新等支援機関等の外部支援を受けている場合、事業計画書作成支援者の名称・支援内容・報酬・契約期間を必ず申告(電子申請システムに入力)。申告していないことが明らかになった場合は、虚偽として不採択・採択取消し・補助金返還・公表などの対象

さらに公募要領の冒頭の「重要事項」は、不適切な支援の例として次のものを挙げています。

  • 作業などにかかる実際のコストと乖離した高額な成功報酬などを申請者に請求する
  • 補助金申請代行を主たるサービスとし、申請者が理解しない内容のまま申請する
  • 料金体系・支援内容・支援期間が明らかでない、金額や条件が不透明な契約を結ぶ
  • 受注が増えるなどの見込みに十分な根拠がないまま、強引な働きかけを行う
  • 申請書に虚偽の内容の記載を教唆する、または事業計画書作成支援者名を記載しないよう求める

事務所が支援を引き受けるときは、料金体系・支援内容・支援期間を書面の契約で明らかにし、公募要領が求める申告にそのまま書ける形にしておくことが基本になります。


3. 相談から採択後までの流れ

第23次公募要領の「補助事業の流れ」は、次の順番で示されています。

段階事業者がすること事務所の支援
1. 事前準備GビズIDプライムの取得、公募要領の確認取得に時間がかかるため最初に案内する。対象要件の確認
2. 申請事業計画の作成と電子申請経営の状況の分析、計画への助言、数値の根拠の確認
3. 審査・採択採択結果の確認結果に応じた今後の段取りの説明
4. 交付申請見積書などをそろえて交付申請補助対象経費の整理、見積の妥当性の確認
5. 交付決定交付決定の通知を受ける交付決定前の発注・契約をしないよう念を押す
6. 補助事業の実施発注・納品・支払支払の方法と証憑の保管の確認
7. 実績報告実施内容と経費の報告証憑の整理と報告書の確認
8. 確定検査・額の確定検査を受ける指摘への対応の助言
9. 請求・支払補助金の請求入金までの資金繰りの確認
10. 事業化状況報告毎年度の達成状況の報告付加価値額・給与支給総額などの実績の集計

採択後に効いてくる3つの決まり

第23次公募要領には、採択後の手続きで事業者がつまずきやすい決まりがいくつもあります。特に次の3つは、相談の最初の段階で伝えておきます。

  1. 交付申請は原則として採択発表日から遅くとも2か月以内。 補助事業実施期限までに交付申請と実績報告がされていない場合は、採択取消しまたは交付決定取消しとされています。
  2. 交付決定日よりも前に発注・契約・購入した経費は、いかなる理由があっても補助対象外。
  3. 支払は補助事業者自らの名義の銀行振込の実績で確認。 原則として現金払いとクレジットカード払いは不可とされています。

また、補助事業実施期間は交付決定日から10か月(ただし採択発表日から12か月後の日まで)とされています。採択から入金までの期間は、事業者が立て替えて支払うことになるため、資金繰りの確認も支援の範囲に入れておくと安全です。


4. 事業計画の作成で事務所が担う部分

第23次公募要領は、付加価値額・1人あたり給与支給総額・事業所内最低賃金の目標値を申請者自身で設定することを求め、その算出根拠を具体的に示すよう求めています。示した数値は、補助事業の終了後も毎年度の事業化状況等報告などで達成状況が確認されます。

事務所の強みは、顧問先の決算書と月次の数字を知っていることです。次の点で計画の数字を確かめる役割を担えます。

  • 目標値が、過去の決算の推移と比べて無理のない水準か
  • 設備投資の効果(売上・原価・人件費)の見込みに根拠があるか
  • 採択後の立替払いと、自己負担分の資金の手当てがあるか
  • 給与支給総額などの目標を、事業者が従業員にどう表明し、どう管理するか

公募要領は、会社全体の事業計画を踏まえず補助金獲得のみを目的とした申請支援が多く見受けられるとして、会社全体の事業計画と連動させることが非常に重要だとしています。補助金ありきではなく、事業計画が先にあり、その実行手段の一つとして補助金を使うという順番を、相談の段階から事業者と共有しておきます。

認定経営革新等支援機関の業務(経営の状況の分析と、事業計画の策定・実行への助言)とも重なる部分が多いため、認定の仕組みは認定経営革新等支援機関とはで確認してください。


5. 支援の契約で決めておくこと

項目決めること
支援の範囲分析・助言の範囲、事業計画のどこまでに関わるか、申請書類の作成に関わるか(資格の範囲内か)
支援の期間申請までか、交付申請・実績報告・事業化状況報告まで含むか
報酬金額と支払時期。採択の有無で変わる部分があるか。公募要領の申告にそのまま書ける形にする
事業者の役割GビズIDの管理、電子申請の操作、事務局との窓口は事業者自身が行うこと
情報の扱い決算書・見積書などの受け渡しの方法と保管

支援期間が申請までの契約では、採択後の交付申請や実績報告で事業者が止まってしまうことがあります。採択後の手続きまで含めるのか、含めない場合は誰が支えるのかを、契約の段階で明確にしておきます。


6. 引き受ける前のチェックリスト

  • 自分の資格で行える範囲(行政書士法第19条、社労士法第27条との関係)を確かめた
  • その回の公募要領を読み、申請の主体・支援者の申告・不適切な行為の例を確認した
  • 事業者がGビズIDプライムを持っているか、取得にかかる期間を見込んだ
  • 補助金の前に、会社全体の事業計画があるか確認した
  • 採択後の立替払いと自己負担分の資金を確認した
  • 交付決定前に発注しないこと、自社名義の振込で支払うことを伝えた
  • 料金体系・支援内容・支援期間を書面の契約にした
  • 事業化状況報告の時期と、報告に使う数字の集め方を決めた

7. まとめ

  • 令和8年1月1日施行の改正行政書士法第19条で、名目を問わず報酬を得て官公署への書類を作成することの制限が条文に明示された
  • 公募要領は、申請者自身による申請、GビズIDの自己管理、支援者の名称・支援内容・報酬・契約期間の申告を求めている
  • ものづくり補助金は、申請・採択・交付申請・交付決定・実施・実績報告・確定検査・請求と支払・事業化状況報告の順に進む
  • 事務所の役割は、事業計画の数字の根拠を確かめ、採択後の手続きまで事業者がやり切れるように支えること

補助金の決まりは公募回ごとに改訂されます。支援の前に、その回の公募要領と所管官庁の最新の案内を確認してください。

参考資料