士業事務所のブログ記事は、紹介以外の経路で事務所を知ってもらう入口になります。ただ、記事を書いても問い合わせにつながらない事務所の多くは、テーマが事務所の業務とつながっていないか、記事を読んだあとに何をすればよいかが書かれていないかのどちらかです。
相談につながる記事は、依頼を考えている人が相談の前に確かめたい問いに一つずつ答え、そのうえで「ここから先は事務所に相談すると何をしてもらえるか」を示します。そして士業のブログは、税金・社会保険・許認可など読者のお金や権利に関わる内容を扱うため、法令や制度の情報を一次資料で確かめることが前提になります。
以下、テーマの選び方、記事の組み立て、法令や制度の確かめ方、書いてはいけないこと、相談へつなげる載せ方の順に整理します。
1. テーマは「相談の前に確かめたい問い」から選ぶ
問いは、実際の問い合わせから集める
ブログのテーマを思いつきで選ぶと、事務所の業務と関係の薄い記事や、すでに多くのサイトが書いている一般的な解説になりがちです。テーマの材料として確実なのは、実際に問い合わせや無料相談で繰り返し聞かれる問いです。
問い合わせのメール、予約フォームの相談内容、無料相談の記録から、聞かれた問いをそのままの言葉で書き出します。無料相談の記録の取り方は士業事務所の無料相談の設計で整理しています。書き出すときは、相談者の名前や事業の内容など、個人や事業者が特定できる情報を外し、問いの形だけを残します。
読者の段階ごとに、問いを分ける
同じ業務でも、読者の段階によって確かめたいことが違います。問いを次のように分けると、記事ごとの役割がはっきりします。
| 読者の段階 | 読者が確かめたいこと | 記事のテーマの例 | 記事の出口 |
|---|---|---|---|
| 手続きが必要か分からない | 自分にどの手続きが必要か、期限はいつか | 手続きの要否と期限の解説 | 必要な手続きの一覧と、相談の案内 |
| 自分でできるか迷っている | 自分で行う場合の手順と、つまずきやすい点 | 手続きの流れと必要書類 | 事務所に頼む場合との違い |
| 頼む先を比べている | 頼むと何をしてもらえるか、いくらかかるか | 業務の範囲と料金の考え方 | 料金のページと無料相談の案内 |
| すでに問題が起きている | 期限を過ぎた、届出を忘れたなどの対処 | 起きたことへの対処の流れ | 早めの相談の案内 |
どの段階の記事も、事務所が引き受けている業務の範囲の中で書きます。取り扱っていない業務の記事は、読まれても相談につながらず、相談が来ても引き受けられません。
1記事で答える問いは一つにする
一つの記事に複数の問いを詰め込むと、どの問いの答えを探している人にも読みにくい記事になります。検索する人は一つの問いを持って記事を開くので、1記事で答える問いは一つにし、関連する問いは別の記事にしてリンクでつなぎます。
2. 記事の組み立て
問いが決まったら、次の順で組み立てます。
| 部分 | 書くこと |
|---|---|
| 冒頭 | 問いへの答えを先に書く。「この記事では〜を解説します」から始めない |
| 背景 | なぜその手続きや決まりがあるのか、根拠になる法令や制度 |
| 判断の材料 | 読者が自分に当てはまるかを判断できる表やチェックリスト |
| 手順 | 何を、いつまでに、どの順で行うか |
| つまずきやすい点 | 期限、必要書類、例外の扱いなど、実務で間違えやすいところ |
| 相談の案内 | 事務所に頼むと何をしてもらえるか(第5節) |
| 出典 | 根拠にした法令・資料と、確認した日 |
読者が知りたいのは、制度の網羅的な説明よりも自分に当てはまるかどうかと、次に何をすればよいかです。判断の材料と手順に分量を割きます。
3. 法令や制度の情報を確かめる
士業のブログは信頼性が問われる
Google 検索セントラルの「有用で信頼性の高い、ユーザーを第一に考えたコンテンツの作成」は、Google のシステムがエクスペリエンス・専門性・権威性・信頼性(E-E-A-T)の面で優れたコンテンツを判断するための要素を使っていると説明し、「中でも、信頼性は最も重要なもの」としています。さらに、人の健康や安全、経済的安定、社会の福利厚生に大きく影響する可能性のあるトピックを「Your Money or Your Life」(YMYL)と呼び、こうしたトピックでは E-E-A-T が優れたコンテンツを特に重視するとしています。
税金や社会保険、許認可の記事は、読者の経済的な判断に直接関わります。誤った情報を載せると、読者の損失になるだけでなく、事務所の信用も損ないます。
確かめ方の手順
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1. 条文を確かめる | 法律・政令・省令の条文は e-Gov法令検索で確かめる。改正があった場合は施行日を確認し、記事の時点で施行されている内容かを確かめる |
| 2. 所管官庁の説明を確かめる | 税務は国税庁、労働・社会保険は厚生労働省や日本年金機構、許認可はその手続きを所管する官庁や自治体のページで確かめる |
| 3. 説明の時点を確かめる | 国税庁のタックスアンサーの各ページには「[令和◯年4月1日現在法令等]」のように、どの時点の法令にもとづく説明かが書かれている。記事の時点とずれていないかを確かめる |
| 4. 出典と確認日を記事に書く | 根拠にした資料の名前・URLと、確認した日を記事の末尾に書く |
| 5. 根拠を記録しておく | 記事ごとに、根拠にした条文と資料を一覧にしておき、改正があったときに見直す記事をすぐに探せるようにする |
他の事務所のブログや解説サイトは、論点の抜けに気づくために読むのはよいですが、事実の根拠にはしません。そのサイト自体が古い情報のまま残っていることがあるからです。
誰が書いたかを示す
同じ Google のページは、コンテンツについて「誰が、どのように、なぜ」作成したかを考えることを勧め、コンテンツの著者が誰であるかを明確にしているかを問いかけています。著者の情報が求められるであろうコンテンツでは、バイラインを記載するなどして正確な著者の情報を追加することを強く勧めています。
士業のブログでは、記事を書いた、または内容を確認した資格者の氏名と資格、所属する会を記事に載せ、事務所の紹介ページにつなげます。資格を持たない職員が下書きをする場合も、公開の前に資格者が内容を確認する流れにします。
また、同じページは、検索エンジンからのアクセスの増加を主な目的として作成されたコンテンツかどうかを問いかけています。検索されそうな語句を並べるための記事ではなく、読者の問いに答える記事にすることが、結果として事務所の信頼にもつながります。
4. 書いてはいけないこと
顧問先や相談者が特定できる話
「先日こんな相談がありました」という書き出しは読まれやすい一方で、士業法の守秘義務との関係に注意が必要です。税理士法第38条、社労士法第21条、行政書士法第12条は、業務に関して知り得た秘密を正当な理由なく漏らすことを禁止しています。職員にも、税理士法第54条、行政書士法第19条の3などで同じ義務がかかります。
実際の相談を材料にする場合は、業種・地域・時期・金額などの組み合わせで相談者が推測できないかを確かめ、事例として書くのではなく「よく寄せられる問い」として一般化して書きます。守秘義務の整理は顧問先の情報の扱いを参照してください。
他のサイトの文章や図表の転載
著作権法第13条は、憲法その他の法令、国や地方公共団体の機関などが発する告示・訓令・通達その他これらに類するもの、裁判所の判決などは、著作権の目的とならないと定めています。条文や通達は記事に引いて使えます。
一方で、他の事務所のブログや解説サイトの文章・図表は著作物です。著作権法第32条は、公表された著作物は引用して利用することができるとしつつ、その引用は公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならないとしています。引用する場合は、同法第48条により、著作物の出所を明示する必要があります。他のサイトの文章を言い換えて自分の記事にすることはせず、一次資料に当たって自分の言葉で書きます。
根拠のない優位性の表示と、隠れた広告
記事の中で「地域で一番」「必ず通る」のように根拠のない優位性を書くことや、依頼して書いてもらった声を第三者の意見のように載せることは、景品表示法の不当表示や、令和5年10月1日から違反となったステルスマーケティングの問題につながります。表示の決まりは士業事務所のホームページに載せる情報で整理しています。
個別の事情への答え
記事は、多くの読者に共通する一般的な説明にとどめます。国税庁は、税務相談の「相談に応ずる」を、租税の課税標準等の計算に関する事項について具体的な質問に対して答弁し、指示し又は意見を表明することと説明しています(税理士法基本通達2−6)。コメント欄やメールで個別の事情への質問が来たときは、記事で答えるのではなく、相談の場で扱う流れにします。
5. 記事から相談へつなげる
記事を読んで「自分の場合はどうなるのか」と思った読者が、次に取れる行動を記事の中に置きます。
| 載せるもの | 内容 |
|---|---|
| 事務所が引き受ける業務 | その記事のテーマで、事務所に頼むと何をしてもらえるか |
| 料金のページへのリンク | 業務ごとの料金と、料金に含む範囲 |
| 無料相談の案内 | 無料相談の範囲(時間・回数・対象の業務)と申し込み方法 |
| 相談のときに用意する資料 | その手続きで最初に必要になる資料 |
| 期限の注意 | 期限のある手続きなら、いつまでに相談すると間に合うか |
| 関連する記事 | 読者の次の問いに答える記事へのリンク |
「お気軽にご相談ください」とだけ書くよりも、その記事のテーマで相談すると何が分かるかを書いたほうが、読者は相談する理由を持てます。無料相談の範囲の決め方は士業事務所の無料相談の設計で整理しています。
記事で紹介したのと同じ業務の情報を、Google マップのビジネス プロフィールにも載せておくと、地図の検索から来た人にも同じ説明が届きます。載せ方は士業事務所のGoogleマップの整え方を参照してください。
6. 書き続けるための運用
ブログは、書いた記事の数よりも、一つひとつの記事が正しく、読者の問いに答えているかが大切です。次のように、書く記事と見直す記事の両方を管理します。
| 管理すること | 方法 |
|---|---|
| 書く問いの一覧 | 問い合わせや無料相談で聞かれた問いを追加し、業務ごとに並べる |
| 記事ごとの根拠 | 根拠にした条文・資料と確認日を記録する |
| 見直しの予定 | 税制改正や法改正の施行の時期に、関係する記事を見直す |
| 相談につながったか | 問い合わせのときに、どの記事を読んだかを聞き、記録する |
記事の内容を見直したときは、記事の出典と確認日も更新します。古い情報のまま残った記事は、読者の誤解と事務所の信用の低下につながります。
7. 公開前のチェックリスト
- 事務所が引き受けている業務の範囲の中のテーマである
- 答える問いは一つで、冒頭で答えを示している
- 条文や制度の説明は一次資料で確かめ、施行日を確認した
- 記事の末尾に出典と確認日を書いた
- 記事を書いた、または確認した資格者の氏名と資格を載せた
- 顧問先や相談者が推測できる内容を含めていない
- 他のサイトの文章や図表を転載していない(引用する場合は出所を明示した)
- 根拠のない優位性の表示がない
- 事務所が引き受ける業務・料金・無料相談の案内を載せた
- 根拠の資料と確認日を、記事の管理表に記録した
8. まとめ
- テーマは、問い合わせや無料相談で実際に聞かれる問いから選び、1記事で一つの問いに答える
- 読者の段階(手続きが必要か分からない、自分でできるか迷っている、頼む先を比べている、問題が起きている)ごとに記事の役割と出口を決める
- Google は E-E-A-T の中でも信頼性が最も重要とし、経済的安定に関わるトピックでは特に重視するとしている。条文と制度は一次資料で確かめ、出典と確認日を書き、資格者の氏名を示す
- 守秘義務、著作権、景品表示法の決まりに触れる書き方をしない。条文や通達は著作権の目的とならないが、他のサイトの文章は著作物である
- 記事の終わりに、事務所が引き受ける業務・料金・無料相談の範囲・用意する資料を載せ、相談へつなげる
法令やガイドラインは改正されることがあります。記事を公開する前と見直すときに、最新の資料を確認してください。
参考資料
- Google 検索セントラル「有用で信頼性の高い、ユーザーを第一に考えたコンテンツの作成」(最終更新日 2025-12-18) https://developers.google.com/search/docs/fundamentals/creating-helpful-content?hl=ja
- 国税庁「税理士制度のQ&A 6 税理士法違反行為」 https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishiseido/qa/06.htm
- 国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」(タックスアンサーの表示の例) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
- 消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing/
- e-Gov法令検索「著作権法」第13条・第32条・第48条 https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048
- e-Gov法令検索「税理士法」第38条・第54条 https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237
- e-Gov法令検索「行政書士法」第12条・第19条の3 https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000004
- e-Gov法令検索「社会保険労務士法」第21条 https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC1000000089