紹介に頼らずに依頼を受けようとすると、ホームページやGoogleマップを見た人が最初に使うのは無料相談です。事務所を知らない人にとって、費用をかけずに「この事務所に頼めるか」を確かめられる入口だからです。

ただ、無料相談は設計を誤ると、答えを持ち帰られて依頼にならない、相談の時間が膨らんで本来の業務を圧迫する、といった形で事務所の負担になります。さらに士業の場合、無料であっても士業法の業務や守秘義務の対象になる点に注意が必要です。国税庁は、税理士業務の「業とする」は必ずしも有償であることを要しないと説明しています。

以下、無料相談の目的・対象・時間の決め方、答える範囲の線引き、記録と守秘、相談後に依頼へ進む案内の順に整理します。


1. 最初に、無料相談の目的を決める

無料相談の目的を「その場で問題を解決すること」に置くと、相談者は答えを得た時点で満足し、依頼の必要がなくなります。事務所の時間も、相談の内容しだいでいくらでも延びます。

そこで、無料相談の目的を「依頼を受けるかどうかを、相談者と事務所の双方が判断する場」と決めます。この目的から逆算すると、無料相談で行うことは次の4つに絞れます。

行うこと内容
状況の聞き取り相談者の状況、期限、すでに行った手続き、手元の資料を聞く
必要な業務の見立てどの手続きや業務が必要になりそうかを示す
引き受けの判断事務所の取り扱い業務に入るか、他の士業や専門家に案内すべきかを判断する
進め方と料金の目安依頼した場合の流れ、期間、料金と追加料金の条件を示す

問題を解決する作業(計算、書類の作成、具体的な判断)は、契約後の業務として行います。この線引きは、次の節で説明する士業法の決まりとも関係します。


2. 無料でも士業の業務になる

税理士:無償の税務相談も税理士業務

税理士法第2条第1項は、税理士が他人の求めに応じ、租税に関して、税務代理・税務書類の作成・税務相談を行うことを業とすると定めています。同項第3号の税務相談は、申告等や申告書等の作成に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずることです。

国税庁の「税理士制度のQ&A 6 税理士法違反行為」は、次のように説明しています。

  • 「業とする」とは、税務代理、税務書類の作成又は税務相談を反復継続して行い、又は反復継続して行う意思をもって行うことをいい、必ずしも有償であることを要しない(税理士法基本通達2−1)
  • 「相談に応ずる」とは、租税の課税標準等の計算に関する事項について、具体的な質問に対して答弁し、指示し又は意見を表明すること(同2−6)

つまり、無料相談で具体的な質問に答えれば、料金を受け取っていなくても税務相談に当たります。税理士でない職員が無料相談の窓口で税額の計算について答えることのないよう、受付の職員が答えてよい範囲(日程の調整、必要な資料の案内など)を決めておきます。

行政書士と社会保険労務士:相談も業務の一つ

行政書士法第1条の4第1項第4号は、行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずることを、行政書士の業務の一つとして定めています。社会保険労務士法第2条第1項第3号も、事業における労務管理その他の労働に関する事項と、労働社会保険諸法令にもとづく社会保険に関する事項について相談に応じ、又は指導することを、社会保険労務士の業務に挙げています。

無料相談は、これらの業務の入口にあたります。料金を取らないからといって、業務と切り離した「雑談」として扱わないほうが安全です。


3. 対象・時間・形式を決める

目的と業務の範囲を決めたら、無料相談の枠組みを決めます。数値の正解はないので、事務所の業務量と、依頼につながった割合を見ながら調整します。

決めること決め方の考え方
対象事務所が引き受ける業務に関する相談に限る。取り扱っていない業務は、最初の問い合わせの段階で案内する
対象者事業者か個人か、地域、すでに他の士業と契約しているかどうかなど、事務所が引き受けられる相手に絞る
回数同じ相談者の無料相談は初回だけにするなど、回数を決める
時間聞き取り・見立て・料金の説明が収まる長さにし、延長する場合の扱い(有料の相談に切り替える、後日に改める)を決めておく
形式来所、オンライン、電話のどれで受けるか。オンラインの場合は使うツールと本人確認の方法を決める
事前の情報相談の内容、期限、手元にある資料を予約の時点で書いてもらう

事前に情報を受け取っておくと、相談の時間の多くを見立てと説明にあてられます。ただし、予約フォームで受け取る情報は必要な範囲にとどめます。マイナンバーや詳しい財務の資料を予約の段階で受け取らないようにし、必要になった時点で安全な方法で受け取ります。フォームで個人情報を受け取るときの決まりは士業事務所のホームページに載せる情報で整理しています。

無料相談の表示

ホームページやGoogleマップで「初回相談無料」と載せる場合は、無料の範囲(時間・回数・対象の業務)を同じ場所に書きます。「無料」とだけ書いて実際には時間の延長や特定の業務の相談に料金がかかると、依頼者との食い違いの原因になります。景品表示法第5条第2号は、役務の価格その他の取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示を禁止しているため、表示の内容によってはこの問題にもつながります。表示の決まりはホームページの記事の料金の表示の節を、Googleマップのビジネス プロフィールでの載せ方は士業事務所のGoogleマップの整え方を参照してください。


4. 答える範囲の線引き

無料相談で「どこまで答えるか」は、相談者にとっても事務所にとっても分かりやすい線にします。次のように、見立てと説明までを無料、個別の作業と判断を有料とすると、無料相談の目的とも一致します。

無料相談で行う契約後の業務として行う
必要になりそうな手続きや業務の種類を示す相談者の数字を使った税額や保険料の計算
手続きの一般的な流れと期限の目安を示す申請書・届出書・契約書などの作成
用意してもらう資料を示す資料を読み込んだうえでの具体的な判断や意見
事務所で引き受けるときの料金と範囲を示す官公署とのやりとりや代理

国税庁の説明にあるとおり、税務相談は「具体的な質問に対して答弁し、指示し又は意見を表明すること」です。無料相談の中で具体的な計算や判断に踏み込むほど、それは業務そのものになり、相談者が答えを持ち帰れる状態になります。「ここから先は依頼を受けてから行います」と区切る言い方を、あらかじめ決めておくと、相談の担当者によってばらつきが出ません。

事務所で扱えない相談

相談の内容によっては、事務所で扱えないことがあります。

  • 他の士業の業務:たとえば行政書士法第1条の3第2項は、書類の作成であっても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものは業務を行うことができないとしています。税務申告や登記など他の士業の業務に当たる部分は、その士業を案内します
  • 紛争になっている事件:弁護士法第72条は、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で一般の法律事件に関して鑑定・代理・和解その他の法律事務を取り扱うことなどを業とすることを禁止しています。行政書士法第1条の4第1項第1号も、官公署に対する代理から弁護士法第72条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除いています。相続人の間で争いがある、相手方と交渉が必要になっているなど、紛争性がある相談は、弁護士への相談を案内します

案内先を相談の場で探すと時間がかかるため、日頃から連携している他の士業や、各士業の会の相談窓口を一覧にしておきます。


5. 記録と守秘義務

守秘義務は無料相談にもかかる

各士業法の守秘義務は、業務に関して知り得た秘密が対象で、料金の有無で区別していません。

士業条文定めの要旨
税理士税理士法第38条正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない
税理士の使用人税理士法第54条使用人その他の従業者も、税理士業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない
行政書士行政書士法第12条正当な理由がなく、その業務上取り扱った事項について知り得た秘密を漏らしてはならない
行政書士の使用人行政書士法第19条の3使用人その他の従業者も同様
社会保険労務士社労士法第21条開業社会保険労務士などは、正当な理由がなくて、その業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない

依頼に至らなかった相談者の情報も、同じ扱いにします。相談票や予約フォームの控えの保管場所、保管する期間、廃棄の方法を決めておきます。事務所の情報の扱い全体は顧問先の情報の扱いで整理しています。

税理士の業務処理簿

税理士法第41条は、税理士に、税理士業務に関して帳簿を作成し、委嘱者別に、かつ、一件ごとに、税務代理、税務書類の作成又は税務相談の内容及びそのてん末を記載することを求め、この帳簿を閉鎖後5年間保存するよう定めています。

前の節のとおり、税理士業務の「業とする」は必ずしも有償であることを要しません。無料相談で具体的な質問に答えた場合も税務相談に当たるものとして、相談の内容と結果(依頼に至ったか、他の相談先を案内したか)を記録する運用にしておくと安全です。記録の様式は、所属する税理士会の案内もあわせて確認してください。

行政書士法第9条と社労士法第19条も、業務に関する帳簿を備え、事件の名称、年月日、受けた報酬の額、依頼者の住所氏名などを記載し、帳簿閉鎖の時から2年間保存することを定めています。無料相談の記録をどう扱うかは、所属する会の案内を確認して決めます。


6. 相談後に依頼へ進む案内

無料相談の最後に、相談者が「依頼するかどうか」を判断できる材料を渡します。口頭だけで説明すると、持ち帰って家族や社内で相談するときに内容が伝わりません。相談の当日か翌営業日までに、書面かメールで次の項目を送ります。

項目書く内容
必要な業務相談の内容から見立てた手続きや業務
引き受ける範囲事務所が行うことと、相談者に行ってもらうこと
料金業務ごとの料金、料金に含む作業、追加料金がかかる条件
進め方と期限契約から完了までの流れ、手続きの期限
用意してもらう資料依頼した場合に最初に必要な資料
返事の期限見積りの有効期限と、期限がある手続きの場合の着手の目安

料金の決め方と料金表の作り方は顧問料の決め方で整理しています。行政書士法第10条の2は、行政書士に報酬の額を事務所の見やすい場所に掲示することを求めています。無料相談で示す料金は、掲示している料金と一致させます。

依頼を断る場合

相談の結果、事務所として依頼を受けない判断をすることもあります。行政書士法第11条は「行政書士は、正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない」と定め、社労士法第20条も、開業社会保険労務士は正当な理由がある場合でなければ依頼(紛争解決手続代理業務に関するものを除く)を拒んではならないとしています。

断る場合は、取り扱っていない業務である、他の法律で制限されている業務である、紛争性があるなど、断る理由を整理して相談者に伝え、適切な相談先を案内します。何が「正当な事由」に当たるかは、所属する会の案内を確認してください。

追いかけの連絡の回数を決めておく

返事の期限を過ぎても連絡がない場合に、何回・いつ連絡するかを決めておきます。回数を決めずに連絡を続けると、相談者の負担になります。期限の翌営業日に一度確認の連絡をし、それで返事がなければ終える、といった形で統一します。


7. 無料相談の設計のチェックリスト

  • 無料相談の目的を「依頼を受けるかを双方が判断する場」と決めた
  • 対象の業務・対象者・回数・時間・延長の扱いを決めた
  • 予約の時点で受け取る情報を必要な範囲に絞った
  • 「無料」の表示に、無料の範囲(時間・回数・業務)を書いた
  • 無料で行うことと、契約後の業務として行うことの線を決めた
  • 受付の職員が答えてよい範囲を決めた
  • 他の士業の業務や紛争性のある相談の案内先を一覧にした
  • 依頼に至らなかった相談者の情報の保管と廃棄の方法を決めた
  • 相談の内容と結果の記録方法を決めた(税理士は業務処理簿との関係を確認した)
  • 相談後に送る書面の項目と、返事の期限・追いかけの連絡の回数を決めた
  • 依頼を断る場合の理由の整理と案内の方法を決めた

8. まとめ

  • 無料相談の目的は、その場で問題を解決することではなく、依頼を受けるかを双方が判断することに置く
  • 国税庁は、税理士業務の「業とする」は必ずしも有償であることを要しないとし、税務相談の「相談に応ずる」を具体的な質問に対する答弁・指示・意見の表明と説明している。行政書士・社会保険労務士でも、相談は業務の一つとして定められている
  • 無料で行うのは状況の聞き取り・見立て・料金の説明までとし、計算・書類の作成・具体的な判断は契約後の業務とする
  • 守秘義務は無料相談にもかかる。税理士は業務処理簿(税理士法第41条)との関係を確認し、相談の内容と結果を記録する
  • 紛争性のある相談は弁護士を案内し、依頼を断る場合は理由を整理して伝える
  • 相談の後に、業務・範囲・料金・進め方・資料・返事の期限を書面で渡す

士業法や会則は改正されることがあります。無料相談の枠組みを決める前に、最新の条文と所属する会の案内を確認してください。

参考資料