士業の顧問料には、国や士業の会が定める公定の基準がありません。 税理士会の会則からは、平成13年の税理士法改正で報酬の最高限度額の規定が削除され、報酬は事務所が自ら決めるものになりました。公正取引委員会も、会則に報酬の基準を置くことが法律で定められていない資格者団体が、会員の報酬について共通の目安となるような基準を設けることは独占禁止法上問題になるとしています。

つまり、顧問料は「相場」から決めるのではなく、自分の事務所の業務量と原価から決めるしかありません。以下、税理士法・行政書士法の条文、公正取引委員会と国税庁の公表資料にもとづき、顧問料と料金表を決める手順を整理します。


1. 報酬の決め方に関わる決まり

公定の基準はない

国税審議会に示された「税理士制度の見直し」(国税庁ウェブサイト掲載)では、税理士会の会則の絶対的記載事項から、税理士業務に対する報酬の最高限度額に関する規定を削除することが挙げられ、平成13年の改正で実施されました。現在の税理士法第49条の2第2項が定める会則の記載事項には、品位保持、研修、紛議の調停、使用人等の監督などは並んでいますが、報酬の基準は含まれていません(第10号に「委嘱者の経済的理由により無償又は著しく低い報酬で行う税理士業務に関する規定」があります)。

公正取引委員会の考え方

公正取引委員会の「資格者団体の活動に関する独占禁止法上の考え方」は、次のように整理しています。

行為考え方(要旨)
会則に報酬の基準を置くことが法律で定められていない資格者団体が、標準額・目標額など、会員の報酬について共通の目安となる基準を設けること市場における競争を実質的に制限する場合は独占禁止法上問題となる
会員から任意に集めた過去の報酬の情報を統計処理し、個々の会員の報酬を明示せず、需要者も含めて概括的に提供すること共通の目安を与えないものであれば問題とならない
報酬の算定方法を、単価などを示さずに一般的に解説すること共通の目安を与えないものであれば問題とならない

これは資格者団体の活動についての考え方ですが、事務所の側から見れば、士業の会から「標準の料金」が示されることは期待できず、料金は自分の事務所の数字から決めるということです。

行政書士の報酬額の掲示義務

行政書士法第10条の2第1項は、行政書士は、その事務所の見やすい場所に、その業務に関し受ける報酬の額を掲示しなければならないと定めています。同条第2項は、行政書士会と日本行政書士会連合会に、依頼者の選択と業務の利便のため、報酬の額の統計を作成・公表する努力義務を課しています。行政書士事務所は、料金表を作ることがそのまま法律上の義務の履行にもなります。

消費者向けの料金は税込で表示する

国税庁のタックスアンサー No.6902 によると、総額表示義務は事業者が消費者に対してあらかじめ表示する価格が対象で、事業者間取引は対象外です。表示の媒体は問いません。個人の確定申告、相続、個人向けの許認可など、消費者を対象にした料金をホームページや案内に載せる場合は、「11,000円(税込)」のように税込価格を表示します。


2. 報酬の算定方法の考え方

公正取引委員会の同じ資料は、報酬を算定するための代表的な考え方として、次のものを挙げています(単価などは示していません)。

考え方内容顧問業務での使いどころ
固定額制業務ごとに一定額を定める月額の顧問料、決算申告、年末調整の基本料
従量額制(時間)作業時間に応じて定める範囲外の相談、臨時の調査
従量額制(作成書類)作成する書類の枚数などに応じて定める源泉徴収票・給与支払報告書の枚数、届出の件数
成功報酬額制成果に応じて加算する顧問業務ではあまり使わない
実費勘案額制実費を勘案して定める郵送費・手数料などの実費
経験・難易度考慮制上の額を経験・難易度で増減する業種や取引の複雑さによる加算
事件価値相関額制対象の金銭的価値に相関させる相続税申告など、財産額で業務量が変わるもの

顧問料は固定額制を中心にし、顧問先ごとに業務量の差が出る部分を従量の考え方で補うのが、組み立てやすい形です。


3. 業務量と原価から顧問料を決める手順

手順1:顧問契約に含む業務を洗い出す

まず、顧問料で何をするのかを決めます。含む業務と含まない業務の境目があいまいなままだと、業務量が見積もれず、後から「それも顧問料のうち」と言われる原因になります。

区分税理士事務所の例社労士事務所の例
月額に含む月次の記帳の確認、試算表、相談労務相談、入退社の手続き
年1回の業務(別建て)決算・申告、年末調整、法定調書、償却資産申告労働保険の年度更新、算定基礎届
範囲外(都度)税務調査の立会い、臨時の相談、融資の資料作成就業規則の作成、助成金の申請

年1回の業務の期限と段取りは繁忙期の段取りで整理しています。

手順2:業務ごとの年間の作業時間を見積もる

顧問先の規模・取引量・資料の揃い方で、同じ業務でも作業時間は大きく変わります。過去の実績の記録があれば、それを使います。 記録がない場合は、1か月だけでも顧問先ごと・業務ごとの作業時間を付けてみると、見積もりの精度が上がります。

手順3:事務所の時間あたりの原価を出す

事務所の年間の費用(人件費、家賃、システムの利用料、保険、研修費など)を、顧客の業務に使える年間の総時間で割ると、時間あたりの原価が出ます。

時間あたりの原価 = 事務所の年間の費用 ÷ 顧客の業務に使える年間の総時間

「顧客の業務に使える時間」には、移動、事務所内の打合せ、研修、営業などの時間は含めません。所定の労働時間の全部を分母にすると、原価を低く見積もってしまいます。

手順4:原価に利益を加えて金額を決める

顧問先ごとの年間の報酬の目安 = 年間の作業時間 × 時間あたりの原価 + 事務所として必要な利益

得られた年間の金額を、月額の顧問料と、年1回の業務の報酬に振り分けます。月額に寄せすぎると、決算期に作業が集中する顧問先の採算が見えにくくなり、年1回の業務に寄せすぎると、月々の収入が不安定になります。

手順5:料金表の形にする

顧問先ごとに計算した金額を、そのまま個別に提示すると説明が難しくなります。業務量を左右する要素(売上規模、仕訳数、従業員数、記帳を誰が行うかなど)で区分した料金表にすると、新しい顧問先にも同じ基準で見積もれます。

料金表の要素
区分の基準年間売上、月間の仕訳数、従業員数など、業務量と相関するもの
月額区分ごとの顧問料
年1回の業務決算・申告、年末調整(人数による加算)など
範囲外の業務時間単価または業務ごとの金額
加算資料の遅れによる特急対応、複数事業所など
表示消費者向けは税込価格。行政書士は事務所に掲示

4. 顧問契約書に書いておくこと

料金表と同じくらい大事なのが、顧問契約書で業務の範囲をはっきりさせることです。

  • 顧問料に含む業務と含まない業務
  • 年1回の業務の報酬と、その請求時期
  • 範囲外の業務の報酬の決め方
  • 資料の提出期限と、遅れた場合の扱い
  • 報酬の見直しの時期と方法(業務量が変わった場合を含む)

「報酬の見直し」を契約書に入れておくと、顧問先の規模が大きくなったときや、事務所の原価が上がったときに、見直しを申し出やすくなります。


5. チェックリスト

  • 他の事務所の料金ではなく、自分の事務所の数字から決めている
  • 顧問料に含む業務・年1回の業務・範囲外の業務を分けた
  • 顧問先ごと・業務ごとの作業時間の記録がある
  • 時間あたりの原価を、顧客の業務に使える時間で計算した
  • 業務量と相関する区分で料金表を作った
  • 消費者向けの料金は税込価格で表示している
  • 行政書士事務所は、報酬の額を事務所の見やすい場所に掲示している
  • 顧問契約書に業務の範囲と報酬の見直しの方法を書いた

6. まとめ

  • 士業の報酬に公定の基準はない。税理士会の会則からは報酬の最高限度額の規定が削除されている
  • 公正取引委員会は、資格者団体が共通の目安となる報酬の基準を設けることは独占禁止法上問題となるおそれがあるとしている
  • 行政書士は報酬の額を事務所に掲示する義務がある。消費者向けの料金は税込で表示する
  • 顧問料は、業務の範囲を決め、作業時間と時間あたりの原価から計算し、業務量と相関する区分の料金表にする

料金表を作った後も、作業時間の記録を続けて、顧問先ごとの採算を定期的に確かめてください。

参考資料