士業の独立・開業は、一般の個人事業の開業と比べて、「名簿への登録」と「事務所の決まり」が手続きの中心になります。事務所の所在地が登録事項に含まれ、登録の申請は事務所の所在地などに応じた士業の会を経由して行い、登録を受けると同時にその地域の会の会員になります。

そのため、進める順番は「事務所を決める → 登録を申請する → 税務署などへの届出」です。事務所を先に決めないと、登録の申請書が書けません。以下、税理士法・行政書士法・社会保険労務士法(社労士法)の条文と国税庁の案内にもとづいて整理します。


1. 開業までの全体の流れ

順番やること根拠・確認先
1事務所の場所と名称を決める各士業法の事務所の規定、士業の会の会則
2登録の申請書類をそろえ、士業の会を経由して連合会に申請する税理士法第21条、行政書士法第6条の2、社労士法第14条の5
3登録免許税を納める登録免許税法 別表第一
4登録を受け、士業の会の会員になる税理士法第49条の6、行政書士法第16条の5、社労士法第25条の29
5税務署に個人事業の開業届出書を出す国税庁 A1-5
6青色申告承認申請書を出す国税庁 A1-8
7職員を雇う場合、給与支払事務所等の開設届出書を出す国税庁 A2-7
8料金表・契約書・情報の扱いの決まりを作る事務所の運営の準備

2. 事務所を決める

事務所は1か所だけ

3つの士業法は、いずれも事務所の数を制限しています。

士業条文定めの要旨
税理士税理士法第40条税理士(税理士法人の社員などを除く)は、税理士業務を行うための事務所(税理士事務所)を設けなければならず、2以上設けてはならない
行政書士行政書士法第8条行政書士(使用人である行政書士や行政書士法人の社員などを除く)は、その業務を行うための事務所を設けなければならず、2以上設けてはならない
社会保険労務士社労士法第18条開業社会保険労務士は、その業務を行うための事務所を2以上設けてはならない(特に必要がある場合で厚生労働大臣の許可を受けたときを除く)

自宅を事務所にする場合も含めて、どこを事務所として登録するかを先に決めます。事務所の設備や表示について、士業の会が会則などで決まりを設けていることがあるため、物件を契約する前に所属する予定の会の案内を確認してください。

登録事項に事務所が入る

税理士法第18条は、税理士名簿に登録する事項に事務所の名称と所在地を含めています。社労士法第14条の2第2項は、報酬を得て業務を行う社会保険労務士は、事務所を定めて、あらかじめ事務所の名称・所在地などの登録を受けなければならないとしています。同条第3項には、事業所に勤務する「勤務社会保険労務士」の登録も別に定められており、勤務から開業に切り替える場合は登録の内容が変わります。


3. 名簿への登録と士業の会

登録の申請先

士業名簿を備える先申請の経路(条文の要旨)
税理士日本税理士会連合会登録申請書を、資格を有することを証する書面を添付して、財務省令で定める税理士会を経由して日本税理士会連合会に提出する(税理士法第21条)
行政書士日本行政書士会連合会資格を有することを証する書類を添えて、事務所の所在地の属する都道府県の行政書士会を経由して、日本行政書士会連合会に申請する(行政書士法第6条の2)
社会保険労務士全国社会保険労務士会連合会登録申請書を、資格を有することを証する書類を添付して、厚生労働省令で定める社会保険労務士会を経由して連合会に提出する(社労士法第14条の5)

行政書士法第6条の2第2項は、連合会が申請者の資格と欠格事由を確かめたうえで登録または登録の拒否をすることを定めています。申請から登録までには審査の期間があるため、開業の予定日から逆算して申請します。

登録免許税

登録には登録免許税がかかります。登録免許税法の別表第一に、次の額が定められています。

登録登録免許税(登録件数1件につき)
税理士の登録6万円
行政書士の登録3万円
社会保険労務士の登録3万円

このほか、士業の会の入会金や年会費がかかります。額は会ごとに定められているため、所属する予定の会の案内で確認してください。

登録と同時に会員になる

登録を受けると、各士業法の定めにより、当然にその地域の士業の会の会員になります。

  • 税理士法第49条の6:登録を受けた税理士事務所の所在地を含む区域に設立されている税理士会の会員となる
  • 行政書士法第16条の5:登録を受けた時に、当然、その事務所の所在地の属する都道府県の区域に設立されている行政書士会の会員となる
  • 社労士法第25条の29:登録を受けた時に、当然、定められた都道府県の区域の社会保険労務士会の会員となる

会員になると、会則や研修の決まりに従うことになります。広告や報酬の表示、職員の扱いなどについて会則で定められていることがあるため、開業の前に一度目を通しておきます。


4. 税務署への届出

個人で開業する場合、士業としての登録とは別に、税務署への届出が必要です。国税庁の「税務手続の案内」にもとづく期限は次のとおりです。

届出提出時期(国税庁の案内)
個人事業の開業届出書事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで
所得税の青色申告承認申請書青色申告書による申告をしようとする年の3月15日まで。その年の1月16日以後に新たに事業を開始した場合は、事業開始等の日から2か月以内
給与支払事務所等の開設届出書職員を雇うなど給与の支払事務を取り扱う事務所等を開設した日から1か月以内

いずれも、提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は翌日が期限です。e-Taxで提出でき、書面での提出もできます。

青色申告承認申請書は期限を過ぎると、その年は青色申告ができません。 開業日が決まったら、開業届と同時に出すと漏れません。

インボイスの登録

顧問先の多くは事業者であり、報酬の請求書が顧問先の仕入税額控除に関わります。国税庁のタックスアンサー No.6498 によると、適格請求書を交付できるのは、税務署長に登録申請書を提出して登録を受けた適格請求書発行事業者だけです。令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日を含む課税期間中に免税事業者が登録を受けた場合は、登録を受けた日から適格請求書発行事業者となることができる経過措置が設けられています。登録を受けると、基準期間の課税売上高にかかわらず消費税の納税義務は免除されません。 顧問先の状況と自分の事業の見込みを踏まえて判断します。


5. 開業前に作っておくもの

登録と届出が済めば業務を始められますが、最初の顧客を迎える前に、次のものを用意しておくと後で困りません。

用意するもの内容関連する記事
料金表業務ごとの報酬の額と、含む業務の範囲顧問料の決め方
契約書のひな形業務の範囲、報酬、見直しの方法、解約顧問料の値上げの伝え方
情報の扱いの決まり資料の受け渡し、保管、端末、廃棄顧問先の情報の扱い
年間の業務の予定申告・届出の期限の一覧繁忙期の段取り

行政書士の場合、行政書士法第10条の2は、報酬の額を事務所の見やすい場所に掲示しなければならないと定めています。料金表は開業の時点で必要です。

職員を雇う予定があれば、募集時の労働条件の明示や守秘義務の説明も準備します。手順は補助者・事務職員の採用で整理しています。


6. チェックリスト

  • 事務所の場所と名称を決め、士業の会の決まりを確認した
  • 登録の申請書類をそろえ、審査の期間を見込んで申請した
  • 登録免許税を納めた
  • 士業の会の入会金・会費と、会則・研修の決まりを確認した
  • 個人事業の開業届出書を出した
  • 青色申告承認申請書を期限内に出した
  • 職員を雇う場合、給与支払事務所等の開設届出書を1か月以内に出した
  • インボイスの登録をするかどうかを判断した
  • 料金表・契約書・情報の扱いの決まりを作った

7. まとめ

  • 士業の開業は「事務所を決める → 登録を申請する → 税務署に届け出る」の順に進める
  • 税理士・行政書士・社会保険労務士とも、事務所は1か所に限られ、登録の申請は士業の会を経由して連合会に行う
  • 登録免許税は税理士6万円、行政書士3万円、社会保険労務士3万円(登録1件につき)
  • 登録と同時に士業の会の会員になり、会則に従う
  • 開業届は確定申告期限まで、青色申告承認申請は原則3月15日まで(1月16日以後の開業は2か月以内)、給与支払事務所の開設届は1か月以内

手続きの書類や期限は改正されることがあります。申請の前に、士業の会と国税庁の最新の案内を確認してください。

参考資料