士業事務所の開業は、店舗を構える業種に比べて大きな設備投資は必要ありませんが、顧問先がつくまでの当面の運転資金(家賃・人件費・会費など)を自己資金だけでまかなうのは簡単ではありません。日本政策金融公庫(日本公庫)は、新たに事業を始める人を対象にした融資制度を設けており、士業事務所の開業でも広く利用されています。

この制度は2024年4月に大きく見直され、従来必要だった自己資金の要件が撤廃されました。 2025年3月には制度の名称も変更されています。日本公庫のニュースリリースにもとづいて、現在の制度の内容を整理します。


1. 新規開業・スタートアップ支援資金の概要

日本公庫国民生活事業は、2025年3月、創業期の方向けの融資制度「新規開業資金」の名称を、スタートアップの方にも利用できることを明確にするため、「新規開業・スタートアップ支援資金」に変更しました。制度の内容は次のとおりです(2025年4月時点、日本公庫の案内による)。

項目内容
制度名新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)
ご利用いただける方新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方
資金のお使いみち新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金
融資限度額7,200万円(うち運転資金4,800万円)
ご返済期間設備資金:20年以内(うち据置期間5年以内)、運転資金:10年以内(うち据置期間5年以内)

士業事務所の開業では、パソコン・複合機・会計ソフトなどの設備資金に加えて、開業から顧問先が一定数つくまでの家賃・人件費・士業の会の会費などを運転資金として見込む使い方になります。


2. 2024年4月、自己資金要件が撤廃された

以前は、無担保・無保証人でこの系統の融資を利用する場合、「新創業融資制度」という別の制度を使う必要があり、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金があることなどが要件とされていました。

日本公庫は2024年4月1日、この要件を撤廃したうえで、無担保・無保証人で利用できる範囲を新規開業資金(当時の名称)そのものに統合しました。2023年度と2024年度以降の制度を比較すると、次のように変わっています。

項目2024年2月15日以前2024年2月16日以後
自己資金要件創業時において、創業資金総額の10分の1以上の自己資金があること等なし
融資限度額3,000万円(うち運転資金1,500万円)7,200万円(うち運転資金4,800万円)
据置期間2年以内5年以内
運転資金の返済期間7年以内(原則)10年以内(原則)

自己資金の要件そのものが制度上なくなったことと、融資限度額・据置期間・返済期間がいずれも拡大されたことが、この見直しの中心です。ただし、自己資金が多いほど審査上有利に働く面があることに変わりはなく、開業までに自己資金を計画的に準備しておくことが望ましい点は従来と同じです。


3. 申込みの準備

融資の申込みには、日本公庫所定の創業計画書を中心に、資金使途が分かる書類(設備資金であれば見積書)、法人として申し込む場合は履歴事項全部証明書、本人確認書類などが必要になります。具体的な必要書類は、申込みの方法(窓口・郵送・インターネット)や事業の内容によって異なるため、申込み前に日本公庫のウェブサイトまたは最寄りの支店で最新の案内を確認してください。

創業計画書には、開業する業務の内容、見込まれる顧問先の数と報酬、設備資金・運転資金の内訳、返済の計画などを記載します。開業までにかかる費用の項目を洗い出しておくと、この創業計画書の作成がそのまま進められます。


4. 士業事務所の開業資金の考え方

士業事務所は、小売業や飲食業に比べて開業時の設備投資が小さく済む一方、顧問契約が積み上がるまでに時間がかかる業種です。開業資金の計画では、次の2つを分けて見積もります。

区分主な内容
設備資金パソコン・複合機・什器、会計・労務・申請書類作成などの業務用ソフトウェア、事務所の内装・看板など
運転資金家賃、補助者・事務職員の人件費、士業の会の入会金・年会費、広告宣伝費、開業後しばらくの生活費相当分

顧問契約は毎月の報酬が積み上がる一方、契約数が増えるまでに一定の期間がかかります。運転資金は、顧問先が軌道に乗るまでの期間を厳しめに見積もり、余裕を持たせておくのが実務上の基本です。士業の開業・独立の流れで整理した登録・届出のスケジュールとあわせて、資金が必要になる時期を確認しておきます。


5. チェックリスト

  • 新規開業・スタートアップ支援資金の対象者(新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方)に該当するかを確認した
  • 設備資金と運転資金を分けて見積もった
  • 創業計画書に記載する顧問先の見込みと報酬の計画を具体化した
  • 必要書類を日本公庫のウェブサイトまたは窓口で最新の内容を確認した
  • 顧問先が軌道に乗るまでの運転資金に余裕を持たせた

6. まとめ

  • 日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金(2025年3月に新規開業資金から名称変更)は、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方が対象で、融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)
  • 2024年4月、無担保・無保証人で利用する場合の自己資金要件(創業資金総額の10分の1以上)は撤廃された
  • 申込みには創業計画書を中心とした書類が必要。具体的な書類は日本公庫の案内で確認する
  • 士業事務所では、設備資金は小さく済む一方、顧問先が軌道に乗るまでの運転資金を厳しめに見積もることが重要

制度の内容は見直されることがあります。申込みの前に、日本政策金融公庫のウェブサイトで最新の案内を確認してください。

参考資料

  • 日本政策金融公庫「『スタートアップサポートプラザ』の新設について」(2024年4月1日ニュースリリース、別紙「日本公庫のスタートアップ向け融資制度の拡充について」) https://www.jfc.go.jp/n/release/pdf/topics_240401b.pdf
  • 日本政策金融公庫「『日本公庫×JR東日本 創業Fes2025』の参加申込受付を開始」(2025年4月25日ニュースリリース、参考1「日本公庫国民生活事業の融資制度の名称変更について」) https://www.jfc.go.jp/n/release/pdf/topics_250425a.pdf