自宅を事務所にして開業すれば、賃料がかからず、通勤の負担もありません。ただし自宅開業には、建築基準法上の制限と、各士業法・会則が求める事務所の独立性という、2つの異なる確認事項があります。 どちらも見落とすと、登録の審査で書類の追加提出を求められたり、開業後に是正を求められたりすることになります。

以下、建築基準法施行令の条文、税理士会の登録案内、行政書士職務基本規則にもとづいて、自宅開業で確認すべき点を整理します。


1. 用途地域の確認(建築基準法)

住宅地には、都市計画法にもとづく用途地域が定められており、第一種・第二種低層住居専用地域など住居専用の地域では、原則として事務所としての用途は制限されます。ただし、建築基準法施行令第130条の3は、次の要件をすべて満たす「兼用住宅」であれば、第一種低層住居専用地域でも事務所を兼ねられるとしています。

  • 住宅に居住する者と、事務所部分の使用者が同一であること
  • 住宅部分と事務所部分とが、建物内部で行き来できること
  • 延べ面積の2分の1以上が住宅用途であり、かつ、事務所部分の面積が50平方メートル未満であること
  • 事務所部分の用途が、同条が列挙する用途(事務所、学習塾など)のいずれか1つであること

この要件は自己所有の戸建てを想定したものですが、分譲マンションの場合は管理規約で事務所使用自体が制限されていることがあり、賃貸の場合は賃貸借契約で「住居専用」とされていることが多く、事務所としての利用には貸主の承諾が必要です。開業を決める前に、自治体の都市計画の窓口で用途地域を確認し、マンションなら管理規約、賃貸なら契約内容を確認します。


2. 各士業法が求める事務所の独立性

用途地域の制限をクリアしても、各士業法・会則が求める事務所としての要件を満たさなければ登録できません。

税理士法第40条・行政書士法第8条・社会保険労務士法第18条は、いずれも事務所を2以上設けてはならないとしています(士業の開業・独立の流れで整理したとおりです)。これに加えて、行政書士職務基本規則第8条第2項は、事務所の設置にあたって「職務取扱上の秘密を保持し得るよう明確な区分を設けるとともに、他人が容易に侵入できない構造にしなければならない」と定めています。同条第5項は、事務所に行政書士の事務所であることを明らかにした表札を掲示しなければならないともしています。

自宅開業の場合、この「明確な区分」を満たすには、生活空間と業務スペースを壁やドアで区切り、玄関から業務スペースまでの動線を独立させることが基本になります。リビングの一角を間仕切りだけで区切るような形では、来客対応時に家族の生活空間が見えてしまい、区分が不十分と判断される可能性があります。


3. 税理士が自宅を事務所にする場合の提出書類(例)

税理士登録の実務では、事務所の形態に応じて提出書類が細かく定められています。近畿税理士会の案内では、開業税理士として登録する場合、建物の所有・使用形態ごとに次のような書類が求められるとされています。

建物の形態主な提出書類
申請者の自己所有事務所設置間取図、念書、建物全部事項証明書(登記簿謄本、法務局発行の3か月以内のもの)
申請者を含む共有上記に加え、共有者全員の同意を得た税理士事務所設置同意書
申請者の親族所有上記に加え、税理士事務所設置同意書、または使用貸借・賃貸借契約書のいずれか1点
賃貸借事務所設置間取図、念書、賃貸借契約書の写し(事務所としての使用目的が確認できるもの)

同会の案内は、「コワーキングスペース」や「バーチャルオフィス」と呼ばれる場所は、事務所としての独立性及び継続性が担保できないため、事務所を設置できないとしています。また、同一の建物内に他の税理士や企業などが存在する場合は、個室を用意するか、固定式のパーティション(高さの目安は180センチメートル以上)を設置して独立した空間を確保し、顧客の資料などが他の利用者の目に触れないようにする必要があるとしています。

これらの運用は税理士会ごとに異なる場合があるため、所属予定の税理士会・行政書士会・社会保険労務士会に、自宅開業の場合の提出書類を事前に確認してください。


4. 事務所の所在地は登録事項として扱われる

税理士法第18条は、税理士名簿に登録する事項に事務所の名称と所在地を含めています。自宅を事務所として登録すると、自宅の住所が登録事項になることを踏まえておく必要があります。日本税理士会連合会をはじめ、各士業の連合会は、登録されている資格者の情報を検索できるサイトを公開しており、事務所の所在地はこうした名簿を通じて外部から把握される可能性があります。

プライバシーが気になる場合は、表札の表記の仕方や、郵便受けの管理、来客の予約制の導入などで対応を検討します。


5. 顧問先の資料の保管

自宅で開業する場合、顧問先から預かる資料やデータの保管にも注意が必要です。各士業法の守秘義務は、業務上知り得た秘密を本人以外に漏らしてはならないとしており、同居する家族であっても、業務に関わらない人物に資料の内容が触れることは避ける必要があります。書類を保管する部屋やキャビネットを分ける、業務用のパソコンを家族と共用しないなど、生活空間と情報管理を分ける工夫をします。情報管理の決まりの作り方は顧問先の情報の扱いで整理しています。


6. チェックリスト

  • 事務所にする場所の用途地域を自治体の窓口で確認した
  • 住居専用地域の場合、兼用住宅の要件(延べ面積の2分の1以上が住宅、事務所部分50平方メートル未満など)を満たすかを確認した
  • 分譲マンションの場合は管理規約、賃貸の場合は契約内容で事務所使用の可否を確認した
  • 生活空間と業務スペースを区切り、来客の動線を独立させる間取りにした
  • 所属予定の士業の会に、自宅開業の場合の提出書類を確認した
  • 顧問先の資料・データを、家族の目に触れない方法で保管する準備をした

7. まとめ

  • 住居専用地域で自宅を事務所にするには、建築基準法施行令第130条の3が定める兼用住宅の要件(延べ面積の2分の1以上が住宅、事務所部分50平方メートル未満など)を満たす必要がある
  • 各士業法・会則は、事務所について生活空間と明確に区切られた、継続して使用できる専用スペースを求めている。コワーキングスペースやバーチャルオフィス単独では認められない
  • 税理士登録では、建物の所有・使用形態に応じて間取図・同意書・契約書などの提出が求められる(詳細は所属予定の会に確認)
  • 事務所の所在地は登録事項であり、名簿を通じて外部から把握されうることを踏まえておく

提出書類や運用の細部は地域の士業の会によって異なります。開業を決める前に、所属予定の会の窓口で最新の案内を確認してください。

参考資料