複数の税理士・社会保険労務士・行政書士が共同で事業を行う場合や、事業承継・複数拠点への展開を見据える場合、個人事務所から法人への切り替えが選択肢になります。ただし、士業法人は株式会社とは異なる仕組みで運営されており、「社員が1人でも設立できる」という誤解をしたまま検討を進めると、後で前提が崩れます。

各士業法にもとづいて、税理士法人・社会保険労務士法人・行政書士法人に共通する要件と、個人事務所との違いを整理します。


1. 社員になれるのは、その資格を持つ人だけ

税理士法人・社会保険労務士法人・行政書士法人は、いずれも当該資格を持つ人が共同して設立する法人です。

  • 税理士法第48条の2:税理士は、税理士業務を組織的に行うことを目的として、税理士が共同して税理士法人を設立することができる
  • 行政書士法第13条の3:行政書士は、行政書士法人を設立することができる

いずれも、社員(出資者であり業務執行者でもある立場)になれるのは、その士業の資格を持つ者に限られます。一般の株式会社のように、資格を持たない出資者だけで法人を作ることはできません。


2. 社員が1人になると、6か月で解散する

現行法では、これら3つの士業法人のいずれについても、社員が1人だけの状態を恒久的に続けることはできません。

士業法人解散に関する条文内容
税理士法人税理士法第48条の18第2項社員が1人になり、そのなった日から引き続き6月間その社員が2人以上にならなかった場合、その6月を経過した時に解散する
社会保険労務士法人社会保険労務士法(社員の欠亡に関する解散事由の定め)社員が1人になることが解散事由の1つとされている
行政書士法人行政書士法第13条の19第2項社員が1人になり、そのなった日から引き続き6月間その社員が2人以上にならなかった場合、その6月を経過した時に解散する

つまり、設立時だけでなく、設立後も継続して2人以上の社員を確保しておく必要があります。 共同経営者の退職や死亡で社員が1人になった場合は、6か月以内に新たな社員を迎えるか、個人事務所に戻るかの判断を迫られることになります。法人化を検討する際は、この6か月というタイムリミットを前提に、社員の加入・脱退の見通しを立てておくことが実務上重要です。


3. 社員の責任は無限責任

株式会社の株主は、出資額を限度とする有限責任ですが、士業法人の社員の責任はこれと異なります。

  • 税理士法人:破産法第16条の規定の適用について、税理士法人は合名会社とみなすとされており(税理士法第48条の21第6項)、法人の財産で債務を完済できないときは、各社員が連帯してその責任を負います
  • 社会保険労務士法人:社会保険労務士法第25条の15の3第1項は、法人の財産をもって債務を完済できないときは、各社員が連帯してその弁済の責任を負うとしています
  • 行政書士法人:会社法の合名会社に関する規定を準用しており(行政書士法第13条の21)、社員は法人の債務について無限責任を負います

法人化しても、社員自身の個人財産が事務所の債務から完全に切り離されるわけではないという点は、株式会社との大きな違いです。


4. 個人事務所にはない「複数事務所」という選択肢

各士業法は、個人の資格者について事務所を1か所に限っています(税理士法第40条、行政書士法第8条、社会保険労務士法第18条)。これに対して、法人にはこの個人向けの制限が適用されません。

  • 税理士法人:第48条の12は、事務所にはその所在地を含む区域の税理士会の会員である社員を常駐させなければならないと定めています。逆に言えば、各事務所に社員が常駐する体制を組めれば、複数の事務所を設けられます
  • 行政書士法人:主たる事務所のほかに「従たる事務所」を設けることができ、従たる事務所の所在地の都道府県の区域に新たに設立されている行政書士会の会員にもなります(行政書士法第14条の2ほか)

複数の拠点で事業を展開したい事務所にとって、法人化は個人事務所の「事務所は1つまで」という制約を外す手段になります。 ただし、各事務所に資格者を常駐させる体制が前提になるため、拠点ごとに社員または所属の資格者を確保できるかが検討の出発点です。


5. 設立の手続きの流れ

3つの士業法人とも、基本的な流れは共通しています。

手順内容
1. 定款の作成社員となる資格者が共同して定款を作成する(税理士法第48条の8、行政書士法第13条の8)
2. 設立の登記主たる事務所の所在地で設立の登記をする。登記によって法人が成立する(税理士法第48条の9、行政書士法第13条の9)
3. 税務署等への届出法人設立届出書など、法人としての税務上の届出を行う
4. 士業の会への届出・登録法人としての登録・入会の手続きを、所属する士業の会に対して行う

定款には、目的・名称・事務所の所在地・社員の氏名及び住所・社員の出資に関する事項・業務の執行に関する事項などを記載します(税理士法第48条の8第3項)。具体的な記載例や添付書類は、所属予定の士業の会の案内で確認してください。


6. 個人事務所から法人に移るときの顧問契約

個人の税理士・社会保険労務士・行政書士として結んでいた顧問契約を、設立した法人に引き継ぐ場合、契約の当事者を個人から法人に変更する手続きが必要です。

民法第539条の2は、契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合、契約の相手方がその譲渡を承諾したときに、契約上の地位がその第三者に移転すると定めています。顧問契約についても、顧問先の承諾なしに当然に法人へ引き継がれるわけではありません。

実務上は、法人化の時期にあわせて顧問先に説明を行い、承諾書の取り交わしや契約書の再締結によって、契約の当事者を法人に切り替えます。顧問契約書に記載する項目は顧問契約書に書く項目で整理しています。


7. チェックリスト

  • 社員になる資格者を2人以上確保できるか確認した
  • 社員が1人になった場合の6か月以内の対応方針(新たな社員の確保など)を決めている
  • 社員は法人の債務について無限責任を負うことを理解している
  • 複数拠点での展開を考える場合、各事務所に常駐させる資格者のめどが立っている
  • 定款に記載する目的・事務所の所在地・社員の出資などの項目を整理した
  • 既存の顧問契約を法人に引き継ぐための顧問先への説明・承諾の進め方を決めている

8. まとめ

  • 税理士法人・社会保険労務士法人・行政書士法人は、いずれも当該資格を持つ者が社員となって共同で設立する法人で、社員が1人になり6か月続くと解散する。現行法では一人法人は認められていない
  • 社員は法人の債務について無限連帯責任を負う。株式会社の有限責任とは異なる
  • 個人には認められない複数事務所の展開が、法人には認められている(各事務所への資格者の常駐などが前提)
  • 設立は、社員となる資格者による定款作成と設立登記で成立する。税務署・士業の会への届出もあわせて必要
  • 既存の顧問契約を法人に引き継ぐには、顧問先の承諾(民法第539条の2)が必要

法人の形態(社員の構成、事務所の展開方針)は事務所ごとに事情が異なります。具体的な検討にあたっては、所属予定の士業の会や、必要に応じて司法書士・税理士に相談してください。

参考資料