顧問先の手続きを電子で進める事務所が増えています。ただ、国税は e-Tax、社会保険と労働保険は e-Gov、補助金は GビズID と、手続きごとに入口も ID も電子証明書も違います。準備の段取りを知らないまま繁忙期に入ると、「利用者識別番号がまだ使えない」「顧問先の GビズID が期限切れでログインできない」「代理で申請できない補助金だった」といった詰まり方をします。
電子申請の準備は、誰の ID で、誰の電子署名で、誰が送るのかを手続きごとに決めることです。以下、3 つの仕組みの違い、e-Tax・e-Gov・GビズID それぞれの準備、ID と電子証明書の管理、落とし穴、年に 1 回の点検の順に、国税庁・e-Gov・日本年金機構・デジタル庁の公表資料をもとに整理します。顧問先の情報を事務所でどう扱うかの全体は士業事務所の情報管理の記事で扱っています。
1. 3 つの仕組みの違い
| e-Tax | e-Gov 電子申請 | GビズID | |
|---|---|---|---|
| 主な手続き | 国税の申告・申請・届出 | 健康保険・厚生年金保険・雇用保険・労働保険などの手続き | 補助金の申請(Jグランツなど)ほか、GビズID に対応した行政サービスへのログイン |
| ID | 利用者識別番号 | e-Govアカウント、GビズID、または他の認証サービスのアカウント | GビズIDエントリー・プライム・メンバー |
| 電子署名 | 原則として必要。税理士の代理送信は税理士の電子署名だけで送れる | 手続きにより必要。GビズIDプライム・メンバーでは、所管の指定により省略できることがある | ログインは ID・パスワードと二段階認証(エントリーを除く)。電子署名の扱いは行政サービスごとに違う |
| 士業が顧問先に代わって出す形 | 税理士の代理送信 | 社会保険労務士が事業主に代わって提出する | GビズID の委任関係を結んだうえでの代理申請(対応する行政サービスのみ) |
3 つは別々の仕組みですが、e-Gov 電子申請には GビズID でもログインできます。事務所で使う ID を減らしたい場合、社会保険労務士の事務所では GビズID に寄せる選択肢があります。
2. e-Tax の準備
税理士自身の利用者識別番号
国税庁の e-Tax のよくある質問は、税理士(社員税理士・所属税理士を含む)が顧問先の申告等データを作って代理送信する場合、「税理士等:利用者識別番号」の欄に税理士自身の利用者識別番号を入れ、その税理士の電子署名を付けて送る必要があるとしています。このため、代理送信をする税理士は、それぞれ電子申告等開始届出書を出して利用者識別番号を取得します。
オンラインで開始届出書を出すと、利用者識別番号はすぐに通知されます。ただし税務代理での利用は、メッセージボックスに「税務代理利用可能の通知」が届いてからです。新しく入所した税理士や、開業したばかりの事務所は、申告の時期から逆算して早めに届出を出します。
代理送信の電子署名
e-Tax で申告等データを送るときは、原則として電子署名と電子証明書が必要です。税理士が顧問先の申告等データを作って代理送信する場合は、税理士等の電子署名だけで送れます(顧問先本人の電子署名は省略できます)。所得税徴収高計算書・納付情報登録依頼・納税証明書の交付請求(署名省略分)は、利用者識別番号と暗証番号だけで送れます。
なお、電子納税は顧問先本人しかできません。納付の段取りは、顧問先の側で決めてもらいます。
顧問先の利用者識別番号
顧問先の電子申告等開始届出書は、税理士が送ることもできます。方法は 2 つです。
| 方法 | 利用者識別番号の通知 |
|---|---|
| 国税庁の「e-Taxの開始(変更等)届出書作成・提出コーナー」から送る | 送った税理士の画面に表示される(保存か印刷を推奨)。顧問先のメッセージボックスには格納されるが、税理士のメッセージボックスには格納されない |
| e-Taxソフトや会計ソフトで作り、税理士の電子署名を付けて送る | 税理士と顧問先の両方のメッセージボックスに格納される。税理士は番号を顧問先に連絡する |
顧問先がすでに利用者識別番号を持っている場合、新しく開始届出書を出すと、それまでの利用者識別番号は使えなくなり、メッセージボックスの内容も確認できなくなります。 国税庁は、送る前に顧問先が番号を取得していないか確かめるよう求めています。新しく顧問先になった事業者は、前の事務所で番号を取得していることが多いため、引き継ぎの資料として番号の有無を必ず確かめます。
3. e-Gov 電子申請の準備
e-Gov 電子申請の利用準備は、電子証明書が要るかの確認、アカウントの準備、ブラウザの設定、アプリケーションのインストールの 4 つです。
電子証明書が要るか
e-Gov は、健康保険・厚生年金保険の資格取得届や賞与支払届などの社会保険関係手続、雇用保険関係手続、労働保険関係手続について、電子申請には電子証明書が必要としています。そのうえで、GビズIDプライム・GビズIDメンバーの場合、原則として所管の行政機関の指定により電子署名を省略できることがあるとしています。手続きごとの要否は、e-Gov の手続検索で確かめます。
社会保険労務士が GビズID で申請する場合
日本年金機構のよくある質問は、社会保険労務士が電子申請で事業主の手続きをする場合について、次のように案内しています。
- GビズID は電子申請を行う者が取得するため、社会保険労務士が取得する(事業所の GビズID は不要)
- GビズID の「会社部署名/部署名」の欄に、「@」+社会保険労務士の登録番号を入れる(例:@12345678)
- 事業主は、社会保険労務士に手続きを任せることを示す証明書を作り、社会保険労務士に渡す
事業主の証明書は、顧問契約を結んだときに受け取る書類の一覧に入れておくと、最初の手続きで慌てずに済みます。
4. GビズID の準備
アカウントの種類
デジタル庁の GビズID クイックマニュアル(2026年9月)では、アカウントは次の 3 種類です。
| 種類 | 発行の方法 | 発行までの期間 |
|---|---|---|
| GビズIDエントリー | 審査なしでオンラインで発行 | 即日 |
| GビズIDプライム | マイナンバーカードとスマートフォンによるオンライン審査、または印鑑証明書と申請書の郵送による審査 | オンラインは最短即日、書類郵送は最大1か月 |
| GビズIDメンバー | 組織の従業員用。GビズIDプライムか管理者権限を持つGビズIDメンバーが申請し、利用者が承諾して発行 | ー |
補助金の申請では GビズIDプライムを求める制度が多く、ものづくり補助金の第23次公募要領も「G ビズ ID プライムアカウント」が必要で、発行には一定期間を要するので早めに準備するよう求めています。
2026年7月9日からの有効期限
GビズID のよくある質問によると、GビズIDプライムと GビズIDメンバーには有効期限があり、有効期間はアカウントの発行日から2年3か月です。有効期限の導入日(2026年7月9日)より前に発行されたアカウントは、導入日が起算日になります。
| 決まり | 内容 |
|---|---|
| 通知 | 有効期限の3か月前・1か月前・2週間前に、登録メールアドレスへ通知 |
| 更新 | 自動では更新されない。GビズID のマイページから手続きする |
| 更新にかかる時間 | オンライン申請は最短即日、書類申請は最大1か月 |
| 残りの期間 | 加算されない。更新完了の通知が届いた日から2年3か月 |
| メンバーの更新 | GビズIDプライムか管理者権限を持つメンバーが、1 人ずつ承認する(まとめて更新はできない) |
| 期限が切れた後 | 更新できる。アカウントは削除されない |
期限の通知は、アカウントに登録されたメールアドレスに届きます。顧問先の代表者が普段見ていないアドレスで登録していると、通知に気づかないまま申請の直前に期限が切れます。顧問先の GビズID の有効期限は、申請の支援を始める前に確かめます。
委任と代理申請
GビズID には、GビズIDプライムの利用者が受任者となり、委任者(GビズIDプライムの保有者)の代わりに、GビズID に対応した行政サービスへ申請できる委任の機能があります。
- 委任者と受任者の両方が GビズIDプライムを持っている必要がある
- どちらかがマイページから申請し、相手が承認すると委任関係が成立する
- 同じ委任者・受任者でも、行政サービスごとに登録が必要
- 委任機能を使えるかどうかは、行政サービスごとに違う
- 利用規約第14条は、委任の前に、委任者と受任者の間で契約の締結その他の適切な方法で合意を形成するよう求めている
- 受任者側の GビズIDメンバー(第一管理者を除く)が代理申請をするには、委任関係ごとに代理人ログイン権限が要る
Jグランツは、2025年1月末から GビズID の委任関係を使った代理申請に対応しています。一方で、補助金ごとの電子申請システムには、代理申請に対応していないものがあります。ものづくり補助金の第23次公募要領は、申請内容を申請者自身が理解・確認したうえで申請者自身が申請するよう求め、電子申請システムには代理申請のための委任関係を管理する機能がないこと、正当な事由なく申請者自身による申請と認められない場合は不採択とすることを定めています。
代理申請ができるかどうかは、システムの機能と、その回の公募要領と、士業法の 3 つで決まります。システムで委任関係を結べても、官公署に出す書類の作成や提出の手続きを報酬を得て引き受けることには、行政書士法などの制限があります。報酬と士業法の関係は補助金の申請支援の報酬の記事で扱っています。
5. ID と電子証明書の管理
事務所の台帳
事務所の ID と、顧問先の ID を分けて台帳にします。台帳にパスワードや暗証番号は書きません。
| 列 | 書く内容 |
|---|---|
| 持ち主 | 事務所・税理士個人・社会保険労務士個人・顧問先 |
| 仕組み | e-Tax・e-Gov・GビズID・電子証明書 |
| 種類 | 利用者識別番号、GビズIDプライム/メンバー、電子証明書の発行元 |
| 有効期限 | 電子証明書と GビズID の有効期限 |
| 通知の届く先 | 期限の通知が届くメールアドレス |
| 更新の担当 | 期限前に更新を確かめる人 |
| 委任関係 | GビズID で結んでいる委任関係と、対象の行政サービス |
顧問先の ID を預からない
顧問先の GビズID や e-Tax の暗証番号を事務所で預かって操作する運用は避けます。GビズID のよくある質問は、パスワードが他人に漏れないよう保管に特に留意するよう求めています。委任の機能がある手続きでは委任関係を結び、ない手続きでは顧問先自身に操作してもらい、事務所は画面の横で確かめ役に回ります。
人が入れ替わるとき
職員の GビズIDメンバーや代理人ログイン権限は、職員が辞めたらすぐに外します。GビズIDメンバーは、GビズIDプライム(または管理者権限を持つメンバー)が退会の手続きをします。GビズIDプライムを退会するには、すべてのメンバーの削除と、すべての委任登録の解除が先に要ります。
6. 落とし穴
- 顧問先の開始届出書を確かめずに出す:すでに利用者識別番号がある顧問先では、以前の番号とメッセージボックスが使えなくなります
- 新しい税理士の届出が遅れる:税務代理で使えるのは「税務代理利用可能の通知」が届いてからです
- GビズID の期限切れに申請の直前に気づく:書類申請での更新は最大1か月かかります。期限の通知は登録メールアドレスに届きます
- Jグランツで代理申請ができたから、他の補助金も同じだと考える:補助金ごとの電子申請システムと公募要領で扱いが違います
- 委任の合意を書面に残さない:利用規約は、委任の前に契約の締結その他の適切な方法で合意を形成するよう求めています
- 辞めた職員の権限を残す:GビズIDメンバーと代理人ログイン権限は、退職の手続きと同じ日に外します
7. 年に 1 回の点検
電子証明書と GビズID の期限は、手続きの直前ではなく、決まった月にまとめて確かめます。繁忙期の前の月に点検の日を決めておくと、更新に時間がかかる場合も間に合います。
| 数字 | 見るところ |
|---|---|
| 3 か月以内に期限が来る ID・電子証明書の数 | 更新の担当に割り振れているか |
| 台帳にない ID の数 | 職員が個人で作った ID が残っていないか |
| 退職者に残っている権限の数 | 0 になっているか |
| 電子申請で詰まった件数と理由 | 番号の未取得・期限切れ・代理申請の不可のどれが多いか |
点検の確認
- 代理送信をする税理士全員が、利用者識別番号を取得し「税務代理利用可能の通知」を受け取っている
- 新しい顧問先の利用者識別番号の有無を、開始届出書を出す前に確かめた
- 社会保険労務士の GビズID の部署名の欄に「@」と登録番号が入っている
- 顧問先ごとに、社会保険労務士に手続きを任せる証明書を受け取っている
- 事務所と顧問先の GビズID の有効期限を台帳に書き、更新の担当を決めた
- 期限の通知が届くメールアドレスを、顧問先と確かめた
- 委任関係ごとに、委任者との合意を書面で残している
- 支援する補助金の公募要領で、代理申請の可否を確かめた
- 退職した職員の GビズIDメンバーと代理人ログイン権限を外した
電子申請の仕組みは改修が続いています。手続きの前に、国税庁の e-Tax、e-Gov 電子申請、GビズID の各サイトと、補助金ごとの公募要領で最新の取り扱いを確かめてください。
8. まとめ
- 国税は e-Tax、社会保険・労働保険は e-Gov、補助金などは GビズID と、手続きごとに ID と電子証明書が違います
- 代理送信をする税理士は、自分の利用者識別番号が要り、税務代理で使えるのは「税務代理利用可能の通知」が届いてからです
- 顧問先がすでに利用者識別番号を持っている場合、新しい開始届出書で以前の番号が使えなくなります
- 社会保険労務士が GビズID で申請する場合は、自分の GビズID の部署名の欄に「@」と登録番号を入れ、事業主から証明書を受け取ります
- GビズIDプライムとメンバーには2026年7月9日から有効期限(発行日から2年3か月)があり、自動では更新されません
- GビズID の委任で代理申請ができるのは対応する行政サービスだけです。ものづくり補助金の第23次公募要領は申請者自身の申請を求めています
参考資料
- 国税庁「e-Taxで申告等データを送信する際の電子署名等の一部省略について」 https://www.e-tax.nta.go.jp/systemriyo/systemriyo2_shoryaku.htm
- 国税庁「社員税理士や所属税理士も、電子申告等開始届出書を提出して利用者識別番号等を取得する必要がありますか。」 https://www.e-tax.nta.go.jp/toiawase/qa/yokuaru08/04.htm
- 国税庁「税理士等が関与先の納税者の電子申告等開始届出書を送信する場合、どういった方法がありますか。」 https://www.e-tax.nta.go.jp/toiawase/qa/kaishi/12.htm
- e-Gov電子申請「利用準備」 https://shinsei.e-gov.go.jp/contents/preparation
- 日本年金機構「よくある質問:社会保険労務士が電子申請で事業主の手続きをする場合の GビズID の取得」 https://www.nenkin.go.jp/faq/denshi/denshishinsei/gbiz-id/2020040109.html
- デジタル庁「GビズID よくある質問」 https://gbiz-id.go.jp/top/faq/faq.html
- デジタル庁「GビズID クイックマニュアル GビズIDプライム編 法人代表者 ver1.6」(2026年9月) https://gbiz-id.go.jp/top/manual/pdf/QuickManual_Prime_corporation.pdf
- Jグランツ「事業者向けQA一覧」 https://fs2.jgrants-portal.go.jp/QAList.pdf
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金事務局「公募要領(第23次公募)」(2026年2月6日) https://portal.monodukuri-hojo.jp/common/bunsho/ippan/23th/%E5%85%AC%E5%8B%9F%E8%A6%81%E9%A0%98_23%E6%AC%A1%E7%B7%A0%E5%88%87_20260206.pdf