「借入の返済は今のところ問題ないが、最近は資金繰りが不安定になっている」「売上が落ちている理由がはっきりしない」。顧問先からこうした相談を受けたとき、認定経営革新等支援機関である事務所が使える制度の一つが早期経営改善計画策定支援です。資金繰り表やアクションプランを含む計画を事業者と一緒に作り、メインの金融機関に出し、その後 3 年間の伴走支援まで行います。費用の3分の2は、都道府県の中小企業活性化協議会が負担します。

この制度は、事業者にとっては自社の経営を数字で見直すきっかけになり、事務所にとっては決算と申告の外側で顧問先の経営に関わる入り口になります。一方で、手引きには利用申請の期限・費用の払い方・伴走支援の義務など、知らずに進めると支払いを受けられない決まりがいくつもあります。以下、制度の位置づけ、費用の負担、申請から伴走支援までの流れ、計画に入れるもの、事務所の契約と記録、落とし穴の順に、令和8年3月31日改訂の手引きをもとに整理します。認定経営革新等支援機関そのものの要件は認定経営革新等支援機関の記事で扱っています。


1. 制度の位置づけ

中小企業庁の「経営改善計画策定支援事業」には、事業者の状態に応じて 2 つの枠があります。早期経営改善計画策定支援(通称:バリューアップ支援事業)と、経営改善計画策定支援(通称:405事業)です。

早期経営改善計画策定支援経営改善計画策定支援(405事業)
向いている事業者返済条件の変更は今のところ要らないが、資金繰りや採算の管理から見直したい返済条件の変更など、金融機関の支援を受けながら経営を立て直す必要がある
計画を出す先メイン行または準メイン行金融支援を伴うため、取引のある金融機関に出して同意を得る
計画の中身資金繰表、ビジネスモデル俯瞰図、アクションプランなど基本的な内容金融支援の内容を含む本格的な計画

手引きは、この制度の目的を、資金繰りの安定を図りつつ本源的な収益力の改善に取り組む事業者を支援し、事業者自身が計画の策定と管理の PDCA サイクルを回せるようにすることとしています。事務所が計画を作って渡して終わりではなく、事業者が自分で計画を見直せる状態にするのが到達点です。

対象事業者

手引きが示す対象事業者は、次のすべてに当てはまる中小企業・小規模事業者です。

  • 資金繰り管理や採算管理など、基本的な内容の経営改善の取組を必要とする
  • 認定経営革新等支援機関の支援を受けて、資金実績・計画表やビジネスモデル俯瞰図、アクションプランなどの計画を早期に作る
  • 計画をメイン行または準メイン行へ提出する
  • 伴走支援を受けながら改善を実行し、自己の経営を見直す意思がある

最後の「意思がある」は形式的な要件に見えますが、実際には一番大事な条件です。3 年間の伴走支援を含む制度なので、経営者が計画づくりと見直しに時間を割けるかを、引き受ける前に確かめます。

2. 費用の負担

中小企業活性化協議会が負担するのは、認定経営革新等支援機関に支払う費用のうち3分の2です。費用の種類ごとに上限があります。

費用の種類協議会の負担備考
計画策定支援3分の2(上限50万円)
伴走支援3分の2(上限30万円)
事業承継先の探索に伴う企業概要書の作成3分の2(上限10万円)事業者が希望する場合に加算(任意)
金融機関交渉3分の2(上限10万円)経営者保証の解除に向けた交渉に、認定経営革新等支援機関である弁護士等を使う場合に加算(任意)

残りの3分の1は事業者が負担します。費用の支払いについて、手引きには次の決まりがあります。

  • 支払いの対象は、認定経営革新等支援機関が業務の委嘱を承諾した日以降に発生した費用です。承諾の前に行った作業は対象になりません
  • 利用申請のときに出した費用の総額(予定)が上限です。予定を超えた分は支払いの対象になりません
  • 各認定経営革新等支援機関が従来から対価を得ないで行っている業務は、支払いの対象になりません
  • 事業者の自己負担分は、金融機関の振込で、委嘱の承諾日以降に支払います(振込手数料は経費に含めません)
  • この制度の費用であることが分かる形で支払い、別の契約に基づく顧問料や決算料などでの精算は認められません

顧問先の支援で特に注意するのは、最後の 2 つです。月次の顧問業務の中ですでに行っている資金繰りの確認を、この制度の費用として請求することはできません。また、顧問料と相殺したり、決算料に上乗せしたりする形では支払いの対象外になります。

3. 申請から伴走支援までの流れ

手引きの手順を、事務所の作業に沿って並べると次のとおりです。

段階主な作業事務所の役割
1. 金融機関への事前相談事業者が、この制度で計画を作ることをメイン行または準メイン行に説明し、事前相談書を受け取る事業者と一緒に説明の段取りをする
2. 利用申請利用申請書・申請者の概要・業務別見積明細書に、登記事項証明書・認定通知書の写し・見積書と単価表・事前相談書・直近3年分の申告書を添えて、協議会へ連名で申請する見積書と単価表を作り、申請書類をそろえる
3. 審査・通知協議会が対象要件を審査し、費用の一部を負担するのが適切と判断すると、業務の委嘱を文書で通知する承諾書を出す。費用の対象はこの承諾日以降
4. 計画の策定実務指針の着眼点に沿って計画を作る。策定中も協議会から進捗の確認や助言がある事業者と協力して計画を作る。外部委託は不可
5. 計画案の提出金融機関に出す前に、計画案を協議会へ出し、助言を受けて必要なら直す協議会の助言を計画に反映する
6. 金融機関への提出事前相談書を出した金融機関に、完成した計画を提出し、受取書等を受け取る事業者と一緒に提出し、説明する
7. 支払申請支払申請書・計画書・業務別請求明細書・従事時間管理表(業務日誌)・実施確認表に、請求書類・契約書の写し・自己負担分の振込の証憑・金融機関の受取書等を添えて、連名で申請する書類をそろえる。利用申請の受理から1年以内に出す
8. 伴走支援計画策定後最初の決算時から3年間、決算期を含めて年2回以上、計画と実績を確かめて金融機関と共有する伴走支援レポートと実施確認表を協議会へ出す
9. 伴走支援費用の支払申請伴走支援費用支払申請書などを連名で出す伴走支援の対象期間の最終日から6か月以内に出す

事前相談書は、金融機関が計画の策定に関わることや、将来の金融支援を約束するものではありません。金融機関自身が認定経営革新等支援機関として計画の策定に関わる場合は、金融機関と連名で申請し、事前相談書は要りません。協議会への申請書類の提出は、認定経営革新等支援機関が事業者の代理としてできます。

期限は 2 つ

手引きには、支払いを受けられなくなる期限が 2 つあります。

  • 利用申請の有効期限:申請が受理された日から1年を経過した日。それまでに計画策定の支払申請を出さないと失効します
  • 伴走支援費用の支払申請の期限:伴走支援の対象期間の最終日から6か月を経過した日。明確な理由があり協議会が認める場合は延ばせます

利用申請の期限は、計画づくりが止まったときに効いてきます。事業者の繁忙期や決算と重なって計画の作業が進まない場合に備えて、申請の時期を決算の予定から逆算して決めます。

4. 計画に入れるもの

手引きは、2023年4月以降の利用申請について、中小企業庁の「収益力改善支援に関する実務指針」の着眼点に沿った支援を求めています。着眼点は 2 つの柱に分かれます。

柱着眼点
収益力改善支援現状分析(会社の基本情報・財務・商流・業務プロセス・外部環境)、経営課題の明確化、経営改善策の検討、数値計画の策定、アクションプランの策定、資金繰りの検討
ガバナンス体制の整備支援現状把握、課題の明確化、対応策の検討と事業者への助言

これを踏まえて作る書類は次のとおりです。中小企業庁は 3 年計画用の計画のひな形を公開しており、同等以上の内容があれば別の様式でも構いません。

  • ビジネスモデル俯瞰図:収益の仕組みや商流を 1 枚で見える形にしたもの。ローカルベンチマークの「商流・業務フロー」をそのまま出すこともできます
  • 経営課題の内容と解決に向けた基本方針
  • 実施計画(アクションプラン)と伴走支援計画
  • 実態貸借対照表・損益計算書などの計数計画
  • 資金繰表(実績・計画)

ガバナンス体制は、実務指針の別添の「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」を使い、事業者と目線を合わせながら確かめることが推奨されています。問題があれば経営課題として計画に織り込みます。

計画づくりで事務所が担うのは、事業者の話を聞き、数字で確かめ、事業者が自分で説明できる形にまとめることです。事業者が中身を理解していない計画は、金融機関への説明でも、3 年間の伴走支援でも使えません。事業計画を事業者と作るときの進め方は事業計画書の作成支援の記事でも扱っています。

5. 事務所の契約と記録

この制度を引き受けるときは、既存の顧問契約とは別の契約を結びます。支払申請には、事業者と結んだ計画策定支援の契約書の写しが要り、伴走支援の支払申請には伴走支援業務の契約書の写しが要ります。

契約書に書く項目

項目書く内容
業務の範囲計画策定支援・伴走支援・企業概要書の作成・金融機関交渉のうち、どれを引き受けるか
費用業務別の金額と、利用申請の見積書・単価表との対応。協議会の負担分と事業者の負担分
支払方法事業者の負担分を金融機関の振込で、委嘱の承諾日以降に支払うこと。顧問料・決算料と分けて請求すること
期間計画の策定期間と、計画策定後最初の決算時から 3 年間の伴走支援期間
伴走支援の回数決算期を含めて年 2 回以上
事業者の協力資料の提出、協議会との面談への協力、金融機関への報告
協議会の負担が受けられない場合支払申請が認められなかった場合の費用の扱い

報酬の決め方そのものは補助金の申請支援の報酬の記事、顧問契約書の項目は顧問契約書の記事で扱っています。

従事時間の記録

支払申請にも伴走支援費用の支払申請にも、従事時間管理表(業務日誌)が要ります。後からまとめて書くと、業務別請求明細書との食い違いが起きやすくなります。担当者が作業のたびに、日付・時間・作業の内容を残す運用を、委嘱の承諾日から始めます。

手引きは、書類に不備や不適切な事項が見つかった場合、支払われないことがあり、すでに受け取っていれば支払決定の取消・返還の対象になるほか、内容が公表される場合があるとしています。不適切な事項の例として、実務指針に沿った支援をしていない、伴走支援の実施や報告をしていない、申請書類に虚偽の記載がある、などが挙げられています。

6. 落とし穴

  • 委嘱の承諾の前に作業を始める:費用の対象は承諾日以降です。事前相談の段階で計画の作業に入り込まないようにします
  • 顧問料の中で精算する:別の契約に基づく顧問料や決算料での精算は認められません。請求書も入金も分けます
  • 月次の顧問業務と区別しない:従来から対価を得ないで行っている業務は対象外です。この制度で新たに行う作業を、見積書の段階で分けて書きます
  • 見積もりを低く出しすぎる:利用申請の費用の総額(予定)を超えた分は対象になりません
  • 計画を事務所だけで作る:手引きは事業者と協力して作ることを求めています。事業者が説明できない計画は伴走支援で使えません
  • 伴走支援を支払申請の有無で考える:伴走支援費用の支払申請をしない場合も、3 年間の伴走支援は必須です
  • 他の事務所に作業を回す:外部委託は認められていません

7. 引き受けた案件を測り直す

伴走支援は 3 年続きます。制度の手続きとは別に、事務所として次の数字を案件ごとに残しておくと、次の案件の見積もりと段取りに使えます。

数字見るところ
利用申請から計画の提出までの日数利用申請の有効期限(1年)に対して余裕があったか
計画策定の従事時間見積もりの時間と実際の時間の差
伴走支援 1 回あたりの従事時間年 2 回以上の実施が、事務所の繁忙期と重なっていないか
計画と実績の差差が大きくなった項目と、そのときに事業者と決めた対応策

引き受ける前の確認

  • 事業者の状態が、早期経営改善計画策定支援(返済条件の変更は不要)と405事業のどちらに当たるかを確かめた
  • 経営者が、計画づくりと 3 年間の伴走支援に時間を割けることを確かめた
  • メイン行または準メイン行に説明し、事前相談書を受け取る段取りをつけた
  • この制度で新たに行う作業を、月次の顧問業務と分けて見積書と単価表に書いた
  • 顧問契約とは別の契約書を用意した
  • 事業者の自己負担分を振込で受け取り、顧問料と分けて請求する準備をした
  • 従事時間を作業のたびに記録する担当と方法を決めた
  • 利用申請の受理から1年以内に支払申請を出せる日程を、決算の予定から逆算した

制度の手引きやマニュアル・FAQ、申請様式は改訂されます。引き受ける前に、中小企業庁の「早期経営改善計画策定支援」のページで最新の版を確かめ、事業者の本社などがある都道府県の中小企業活性化協議会に相談してください。

8. まとめ

  • 早期経営改善計画策定支援は、返済条件の変更までは要らないが基本的な経営改善が必要な事業者が、認定経営革新等支援機関と計画を作り、メイン行または準メイン行に出す制度です
  • 中小企業活性化協議会が費用の3分の2を負担します(計画策定支援は上限50万円、伴走支援は上限30万円。企業概要書の作成と金融機関交渉はそれぞれ上限10万円を加算できます)
  • 費用の対象は委嘱の承諾日以降の作業で、事業者の負担分は振込で、顧問料・決算料と分けて支払います
  • 利用申請の受理から1年以内に計画策定の支払申請を出し、伴走支援費用は対象期間の最終日から6か月以内に申請します
  • 計画策定後最初の決算時から3年間、年2回以上の伴走支援が必須です
  • 外部委託は認められず、従事時間管理表と実施確認表が支払申請に要ります

参考資料