顧問先から「補助金を使いたい」「助成金がもらえると聞いた」と相談されたとき、事務所で最初に決めておくべきなのは、自分の資格でどこまで引き受けてよいかです。令和8年1月1日に施行された改正行政書士法は、行政書士・行政書士法人でない者がいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、官公署に提出する書類の作成を業として行うことを制限すると条文に明示しました。名目を「コンサルタント料」に変えても、書類の作成の対価であれば制限に当たります。

補助金と助成金の申請支援の業際は、行政書士法・社会保険労務士法・税理士法の 3 つの法律で決まります。以下、業際を踏むと何が起きるか、3 つの法律の条文、補助金と助成金の違い、資格ごとに受けられる範囲、自分の事務所の案件の棚卸し、ほかの士業との分け方、落とし穴、測り直しの順に整理します。申請の支援の進め方そのものは補助金の申請支援の進め方の記事で扱っています。


1. 業際は「作業の種類」と「制度の所管」で決まる

補助金・助成金の申請支援で事務所が引き受ける作業は、大きく次の 4 つに分かれます。

作業例
助言・相談使えそうな制度を探す、事業計画の考え方を助言する、経営の状況を分析する
書類の作成申請書・事業計画書・添付書類を、申請者に代わって作る
提出の代行作った書類を、申請者に代わって窓口や電子申請で出す
税務・会計の対応受け取った補助金の会計処理、税金の計算や相談

このうち書類の作成と提出の代行、そして税務は、法律で資格を持つ者の業務と定められていて、資格の無い者が報酬を得て業として行うことが制限されています。一方で、助言や相談の多くは独占業務ではありません。どの資格の独占になるかは、制度が何の法律にもとづくか(所管がどこか)で変わります。

業際を踏むと、次のことが起きます。

  • 資格を持たない業務を報酬を得て行った事務所が、それぞれの士業法の罰則の対象になる
  • 公募要領が求める支援者の申告の内容と、実際の作業がずれる
  • 顧問先が、不採択や不支給のあとに「誰に何を頼んでいたか」を説明できなくなる

2. 3 つの法律の条文

行政書士法第1条の3・第19条(令和8年1月1日施行)

行政書士法第1条の3第1項は、行政書士の業務を次のように定めています。

行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(略)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。

同条第2項は、その書類の作成であっても、他の法律で業務が制限されているものは行政書士も行えないと定めています。雇用関係助成金の申請書のように、社会保険労務士法で制限されている書類がこれに当たります。

そして第19条第1項は、行政書士でない者の業務を次のように制限しています。

行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。(ただし書あり)

ただし書は、他の法律に別段の定めがある場合と、総務省令で定める定型的な手続の電磁的記録を、総務省令で定める者が作成する場合を除いています。

総務省の通知(令和7年6月13日 総行行第281号)は、この改正の趣旨を、行政書士でない者が「手数料」や「コンサルタント料」等どのような名目であっても、対価を受領して、業として、官公署に提出する書類等を作成することは違法であるという現行法の解釈を条文に明示するものと説明しています。改正で新しく禁止が加わったのではなく、もともとの解釈が条文に書かれた、という位置づけです。

補助金の申請書類は、国や地方公共団体(またはその委託を受けた事務局)に提出するもので、この「官公署に提出する書類」として扱われるのが一般的です。扱いに迷う制度は、所属する士業の会か、その制度の窓口に確かめます。

社会保険労務士法第2条・第27条

社会保険労務士法第2条第1項は、社会保険労務士の業務として、労働社会保険諸法令にもとづく申請書等の作成(第1号)、その提出に関する手続の代行(第1号の2)、申請等についての行政機関等への主張・陳述の代理(第1号の3)、帳簿書類の作成(第2号)、労務管理や社会保険に関する相談・指導(第3号)を定めています。

第27条は次のとおりです。

社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合は、この限りでない。

制限されるのは第1号から第2号までで、第3号の相談・指導は含まれていません。雇用関係助成金の相談に乗ることと、申請書を作る・出すことは、法律上の扱いが違います。ただし書の「政令で定める業務に付随して行う場合」に自分の資格が当たるかは、社会保険労務士法施行令の条文で確かめます。

税理士法第2条・第52条

税理士法第2条第1項は、税理士業務を税務代理(第1号)、税務書類の作成(第2号)、税務相談(第3号)と定めています。第52条は次のとおりです。

税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。

行政書士法第19条や社会保険労務士法第27条と違い、第52条の条文には「報酬を得て」の文言がありません。また、税務相談も税理士業務に含まれます。補助金を受け取ったあとの会計処理や、それにかかる税金の計算の相談は、この税務相談に当たることがあります。

なお、財務書類の作成や会計帳簿の記帳の代行は、第2条第2項で税理士が税理士業務に付随して行える業務とされていますが、税理士だけの業務(独占業務)ではありません。

3. 補助金と助成金の違い

「補助金」と「助成金」は呼び名だけでは区別できません。業際の判断に使うのは、所管と根拠の法律です。

補助金(経済産業省系など)雇用関係助成金(厚生労働省)
主な所管経済産業省・中小企業庁、地方公共団体など厚生労働省(窓口は都道府県労働局・ハローワークなど)
目的の例設備投資、販路の開拓、事業の転換雇用の維持、採用、人材の育成、処遇の改善
審査公募・審査があり、採択されないことがある要件を満たせば支給される仕組みのものが多い
申請書の作成を報酬を得て業として行える資格行政書士(行政書士法第1条の3・第19条)社会保険労務士(社会保険労務士法第2条・第27条)
事業計画の助言独占業務ではない(中小企業診断士・認定支援機関などが担うことが多い)独占業務ではない

地方公共団体の制度には、名前が「助成金」でも経済産業省系の補助金と同じ扱いのものや、その逆もあります。名前ではなく、交付要綱や公募要領に書かれた根拠と所管で判断します。雇用関係助成金の制度の一覧と最新の要件は、厚生労働省の「事業主の方のための雇用関係助成金」のページで確かめます。

4. 資格ごとに受けられる範囲

第2章と第3章をまとめると、資格ごとに受けられる範囲は次のようになります。

資格補助金雇用関係助成金補助金の会計・税務
行政書士申請書類の作成・提出の代理、相談申請書の作成・提出の代行は行えない(社労士法第27条。行政書士法第1条の3第2項)税務相談・税務書類の作成は行えない(税理士法第52条)
社会保険労務士報酬を得て申請書類を作成することは行政書士法第19条との関係を確かめる申請書の作成・提出の代行・相談税務相談・税務書類の作成は行えない(税理士法第52条)
税理士経営の状況の分析や事業計画への助言。報酬を得て申請書類そのものを作成することは行政書士法第19条との関係を確かめる相談に乗ることはできるが、申請書の作成・提出の代行は社労士法第27条との関係を確かめる会計処理、税務相談、税務書類の作成
中小企業診断士経営の診断、事業計画への助言。報酬を得て申請書類そのものを作成することは行政書士法第19条との関係を確かめる相談に乗ることはできるが、申請書の作成・提出の代行は行えない税務相談・税務書類の作成は行えない

中小企業診断士は、中小企業支援法にもとづいて経済産業大臣が登録する資格で、法律で独占が定められた書類の作成業務はありません。事業計画への助言は、中小企業診断士の中心の業務です。

認定経営革新等支援機関は、中小企業等経営強化法第31条にもとづく認定で、資格そのものではありません。認定を受けていても、上の表の業際はそのまま残ります。認定支援機関の確認書が求められる補助金では、確認書を出すことと申請書類を作ることは別の作業として分けて考えます(認定経営革新等支援機関の記事)。

5. 自分の事務所の案件を棚卸しする

条文を読んだら、過去 1 年に受けた補助金・助成金の案件を 1 件 1 行で書き出します。記録する項目は次のとおりです。

項目書き方の例
顧問先A 社(製造業)
制度の名前ものづくり補助金、キャリアアップ助成金 など
所管と根拠中小企業庁の公募要領、厚生労働省の支給要領 など
事務所がした作業第1章の 4 つの作業のうち、実際にしたものすべて
書類を実際に作ったのは誰か顧問先の担当者、事務所の職員、連携先の行政書士 など
提出したのは誰か顧問先、事務所、連携先
報酬の名目と受け取った事務所顧問料に含む、申請支援料、コンサルタント料 など
担当した資格税理士、社会保険労務士、行政書士、中小企業診断士
公募要領の支援者の申告申告した/求められていない/していない

書き出したら、次の 3 つを見ます。

  1. 作業が自分の資格の範囲を超えている行:たとえば税理士事務所が報酬を得て補助金の申請書を作っている、行政書士事務所が助成金の申請書を出している、といった行です
  2. 報酬の名目と作業が合っていない行:名目を「コンサルタント料」「顧問料に含む」としていても、実際に書類を作っていれば、その対価と見られます
  3. 支援者の申告と実際の作業が食い違う行:公募要領が支援者の名称や報酬の申告を求めているのに、申告していない、または申告した内容と実際の作業が違う行です

どれか 1 つでも当たる行があれば、第6章の分け方で役割と契約を見直します。

6. ほかの士業と役割と契約を分ける

自分の資格で受けられない作業は、その作業を受け持つ士業と分けます。分けるときに決めておくことは次のとおりです。

  • 誰が何の作業をするか:助言は自分の事務所、申請書の作成と提出は行政書士(補助金)または社会保険労務士(助成金)、会計と税務は税理士、のように作業ごとに書く
  • 契約は誰と誰の間か:申請書の作成を受け持つ士業は、顧問先と直接契約を結び、報酬もその士業が顧問先から直接受け取る形にする。自分の事務所が申請書の作成まで一括で受け、その一部をほかの士業に回す形は、第19条・第27条との関係で問題になりやすい
  • 資料の受け渡し:顧問先の資料をほかの士業に渡すときは、顧問先の同意を書面でとる。守秘義務の扱いは顧問先の情報の扱いの記事で整理しています
  • 公募要領の支援者の申告:誰が支援者として申告するかを、申請の前に決める

分け方を決めたら、顧問先への説明の文面も 1 枚にまとめ、相談を受けた段階で渡します。

7. 落とし穴

  • 名目を変えれば大丈夫だと考える:第19条は「いかなる名目によるかを問わず」と定めています。「コンサルタント料」「手数料」など、名目にかかわらず書類の作成の対価であれば制限に当たります
  • 顧問先が自分で書いた形にする:実際には事務所が書いた書類を、顧問先の名前で出すだけでは、作業の中身は変わりません
  • 認定支援機関なら書類も作れると考える:認定は資格ではなく、業際はそのまま残ります
  • 助成金も補助金と同じ扱いにする:雇用関係助成金の申請書の作成と提出の代行は、行政書士も行えません
  • 相談に乗ることまで控えてしまう:社会保険労務士法第3号の相談や、事業計画への助言の多くは独占業務ではありません。受けられる範囲まで断る必要はありません
  • 無料なら何をしてもよいと考える:税理士法第52条には「報酬を得て」の文言がありません。無料でも税務相談は税理士業務に当たります

8. 半年ごとに測り直す

役割と契約を分けたら、半年ごとに第5章と同じ項目で案件を書き出し直します。見るのは、自分の資格の範囲を超えた行の数と、支援者の申告と実際の作業が食い違った行の数の 2 つです。どちらも 0 件が目標です。

測り直しの前に、次の点を確かめておきます。

  • 過去 1 年の補助金・助成金の案件が、同じ項目で 1 件 1 行にそろっている
  • 案件ごとに、制度の所管と根拠を交付要綱や公募要領で確かめた
  • 事務所がした作業を、助言・書類の作成・提出の代行・税務の 4 つに分けて書いている
  • 報酬の名目ではなく、実際の作業で自分の資格の範囲に収まっているかを見た
  • 範囲を超える作業は、受け持つ士業と顧問先が直接契約している
  • 公募要領が求める支援者の申告を、実際の作業どおりにしている

法令は改正されることがあります。行政書士法第19条のただし書にもとづく総務省令の内容によって、例外になる手続が変わることもあります。事務所の決まりを作る前に、最新の条文と各省の案内を確認してください。

9. まとめ

  • 補助金・助成金の申請支援の業際は、行政書士法・社会保険労務士法・税理士法の 3 つで決まります
  • 令和8年1月1日施行の改正行政書士法第19条は、行政書士でない者が「いかなる名目によるかを問わず」報酬を得て官公署に提出する書類を作成することを制限すると条文に明示しました
  • 雇用関係助成金の申請書の作成と提出の代行は社会保険労務士の業務で、行政書士も行えません。相談・指導は第27条の制限に含まれていません
  • 税務相談も税理士業務で、第52条には「報酬を得て」の文言がありません
  • 認定経営革新等支援機関の認定は資格ではなく、業際はそのまま残ります
  • 過去 1 年の案件を 1 件 1 行で書き出し、作業・報酬の名目・支援者の申告が資格の範囲に収まっているかを確かめます

参考資料