顧問先の資料が期限までにそろわないと、月次の記帳や給与計算、申告や届出の作業が後ろにずれ、担当者は督促の電話とメールに時間を取られます。資料の遅れは顧問先の怠慢に見えがちですが、多くは事務所の依頼の仕方と督促の段取りで縮められます。
資料回収を早めるために事務所で決めることは、顧問先ごとに資料の一覧を固定する、事務所の締め切りから逆算して依頼日を決める、受け取りの置き場を 1 つにする、待ち日数を数えて督促を決まった日に行うの 4 つです。以下、遅れる仕組み、自分の事務所での数え方、依頼の仕方、督促の段取り、受け取りと保存、落とし穴、測り直しの順に整理します。
1. 資料が遅れるのは、依頼と督促の形が決まっていないから
資料回収が遅れる事務所では、次のような状態が重なっています。
| 状態 | 起きること |
|---|---|
| 依頼する資料が毎回ちがう | 担当者がその都度メールを書くため、書き漏れが出る。顧問先も「何を出せば終わりか」が分からない |
| 期限が「なるべく早く」 | 顧問先の中で後回しになる。事務所の作業の締め切りと結びついていない |
| 依頼日が遅い | 事務所の作業が始まる直前に依頼するため、顧問先の準備が間に合わない |
| 受け取る場所が散らばっている | メール・郵送・持参・チャット・クラウドの共有フォルダに分かれ、そろったかどうかを数えられない |
| 督促が担当者の記憶頼み | 担当者が忙しい月ほど督促が遅れ、遅れても所長が気づけない |
どれも顧問先の側ではなく、事務所の側で決めれば変えられるものです。まず、いまの遅れを数えるところから始めます。
2. 自分の事務所の待ち日数を数える
直近 3 か月の依頼を、顧問先ごとに 1 行ずつ書き出します。記録する項目は次のとおりです。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 顧問先 | 株式会社〇〇 |
| 依頼の種類 | 月次の記帳、給与計算、年末調整、決算、算定基礎届、許可の更新 など |
| 依頼した日 | 9 月 1 日 |
| 期限として伝えた日 | 9 月 10 日(伝えていなければ「なし」) |
| 全部そろった日 | 9 月 18 日 |
| 待ち日数 | 17 日(依頼した日から全部そろった日まで) |
| 督促した回数 | 2 回 |
| 最後まで欠けていた資料 | クレジットカードの明細 |
書き出したら、次の 3 つを見ます。
- 待ち日数の長い顧問先:上位の数社で、担当者の督促の手間の大半を占めていることが多いです
- 最後まで欠けていた資料の種類:同じ種類(カードの明細、経費の領収書、勤怠の記録など)が繰り返し欠けていれば、依頼の文面か受け取り方を直します
- 期限を伝えていない依頼の割合:期限を伝えていない依頼が多ければ、まず期限を書くことから始めます
待ち日数は平均だけでなく、いちばん長かった日数も見ておきます。平均が短くても、1 社の遅れが申告や届出の期限に迫っていることがあるためです。
3. 依頼の仕方:一覧・依頼日・文面を固定する
3-1. 顧問先ごとの資料の一覧を作る
依頼のたびに文面を書くのをやめ、顧問先ごとに「毎回出してもらう資料」の一覧を作ります。月次なら、預金通帳の写しや入出金の明細、クレジットカードの明細、請求書と領収書、給与の支給の記録などです。一覧は顧問先と共有し、一覧のすべてがそろった日を「そろった日」とします。
年に 1 回の資料(決算、年末調整、年度更新や算定基礎届、許可の更新など)は、前の年に使った一覧を残しておき、翌年の依頼に使い回します。
3-2. 依頼日は、事務所の締め切りから逆算する
期限は、法令の期限そのものではなく、事務所が作業に使う日数を引いた日に置きます。たとえば次のような期限が、逆算の起点になります。
- 法人税の確定申告は、各事業年度終了の日の翌日から 2 か月以内が原則です(法人税法第 74 条第 1 項。申告期限の延長の特例を受けている法人は別です)
- 源泉所得税の納期の特例の承認を受けた事業者(給与の支払を受ける者が常時 10 人未満)は、1 月から 6 月までの分を 7 月 10 日まで、7 月から 12 月までの分を翌年 1 月 20 日までに納めます(所得税法第 216 条)
法令の期限から、事務所の作業日数、確認と顧問先への説明の日数を引いたところが事務所の締め切りで、そこからさらに顧問先の準備に要る日数を引いた日が依頼日です。年末から 3 月にかけて期限が重なる時期の逆算は、繁忙期の段取りの記事で月ごとに整理しています。
3-3. 依頼文の型を決める
依頼のメールや連絡には、毎回次の 5 つを書きます。
- 何を:資料の一覧(顧問先ごとの一覧をそのまま貼る)
- いつまでに:日付と曜日(「今月中」ではなく「9 月 10 日(木)」)
- どこへ:受け取りの置き場(第 5 章)
- どの形で:紙の写しでよいか、元の電子データが要るか
- 届かないとどうなるか:「期限を過ぎると、今月の試算表のお渡しが〇日ごろになります」のように、顧問先にとっての影響
5 つ目は脅しではなく、予定を共有するための一文です。影響が書いてあると、顧問先の中で優先順位を付けやすくなります。
4. 督促の段取り:回数と担当を先に決める
督促は、期限を過ぎてから考えるのではなく、先に回数と担当と日を決めておきます。たとえば次のような段取りです。
| 回 | いつ | 誰が | どうやって |
|---|---|---|---|
| 1 回目 | 期限の翌営業日 | 担当者 | メール(欠けている資料だけを書く) |
| 2 回目 | 1 回目の 3 営業日後 | 担当者 | 電話(顧問先の窓口の方と、出せる日を決める) |
| 3 回目 | 2 回目で決めた日を過ぎたとき | 所長 | 電話(申告や届出の予定と、作業の日程を相談する) |
督促した日と回数は、第 2 章の記録に書き足します。3 回目まで進んだ顧問先が毎月同じなら、依頼日を早めるか、顧問契約の範囲と顧問料を見直す話し合いが必要です。顧問料の決め方は顧問料の記事で整理しています。
5. 受け取りの置き場と保存の扱い
5-1. 置き場を 1 つにする
受け取りの置き場は、顧問先ごとに 1 つにします。メールで届いたものも、郵送や持参で届いたものも、担当者が同じ置き場に入れてから「そろった」と数えます。置き場が分かれていると、そろったかどうかを担当者本人しか答えられません。
顧問先の資料には、個人情報やマイナンバーを含むものがあります。受け取りの方法を決めるときは、見られる人の範囲と送り方の決まりもあわせて決めます。事務所の情報の扱いの決まりは、情報管理の記事で整理しています。
5-2. 顧問先の保存の義務を伝える
電子帳簿保存法第 7 条は、所得税と法人税の保存義務者に、電子取引を行った場合の取引情報の電磁的記録の保存を求めています。顧問先が請求書や領収書をメールやウェブで受け取った場合、事務所に転送しても、顧問先の側で元のデータを保存する必要があります。依頼の文面に「送ったあとも元のデータは消さずに保存してください」と書いておきます。
5-3. 事務所の帳簿との関係
士業の法律は、事務所の側にも業務の帳簿を求めています。税理士法第 41 条は、委嘱者別・1 件ごとに業務の内容とてん末を記載した帳簿を作り、閉鎖後 5 年間保存することを求めています。社会保険労務士法第 19 条と行政書士法第 9 条も、業務に関する帳簿を関係書類とともに帳簿閉鎖の時から 2 年間保存することを求めています。資料の依頼と受け取りの記録を、案件の記録と同じ置き場にまとめておくと、後から経緯をたどりやすくなります。
6. 落とし穴
- 一覧を作っても、顧問先と共有していない:事務所の中だけの一覧では、顧問先は何を出せば終わりか分かりません
- 期限を法令の期限そのものにしている:事務所の作業日数が残らず、毎回ぎりぎりになります
- 督促を担当者に任せきりにする:督促の回数と日が記録に残らず、所長が遅れに気づくのは期限の直前になります
- 待ち日数を平均だけで見る:1 社の大きな遅れが平均に埋もれます。いちばん長かった日数も見ます
- 置き場を増やす:新しい受け取り方を足すたびに、そろったかどうかを数える場所が増えます。足すなら、古い受け取り方を止めます
7. 3 か月後に測り直す
依頼の一覧・依頼日・文面・督促の段取り・置き場を決めたら、3 か月後に第 2 章と同じ項目で数え直します。見るのは、待ち日数(平均といちばん長かった日数)、督促が 3 回目まで進んだ件数、最後まで欠けていた資料の種類の 3 つです。
測り直しの前に、次の点を確かめておきます。
- 顧問先ごとに、毎回出してもらう資料の一覧がある
- 一覧を顧問先と共有している
- 依頼日を、事務所の締め切りから逆算して決めている
- 依頼文に「何を・いつまでに・どこへ・どの形で・届かないとどうなるか」が入っている
- 督促の回数・担当・日が決まっていて、督促した日を記録している
- 受け取りの置き場が顧問先ごとに 1 つになっている
- 電子で受け取った資料の元データを、顧問先の側でも保存するよう伝えている
顧問先ごとの期限の台帳と、資料の依頼の文例の見本は、当サイトの資料で配っています。
8. まとめ
- 資料の遅れの多くは、依頼に「何を・いつまでに・どこへ」が欠けていることと、督促が担当者の記憶頼みになっていることから起きます
- まず直近 3 か月の依頼で、待ち日数・督促の回数・最後まで欠けていた資料を顧問先ごとに数えます
- 依頼日は、法令の期限から事務所の作業日数と顧問先の準備の日数を引いて決めます
- 督促は回数・担当・日を先に決め、3 回目は所長が申告や届出の予定を相談します
- 置き場は顧問先ごとに 1 つにし、電子で受け取った資料は顧問先の側でも保存するよう伝えます
- 3 か月後に同じ項目で数え直し、次に直すところを決めます
問い合わせから顧問契約に進むまでの受け方は、問い合わせ対応の記事で整理しています。
法令は改正されることがあります。期限や保存の扱いを決める前に、最新の条文と国税庁などの案内を確認してください。
参考資料
- e-Gov法令検索「法人税法」第74条 https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- e-Gov法令検索「所得税法」第216条 https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」第7条 https://laws.e-gov.go.jp/law/410AC0000000025
- e-Gov法令検索「税理士法」第41条 https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237
- e-Gov法令検索「社会保険労務士法」第19条 https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC1000000089
- e-Gov法令検索「行政書士法」第9条 https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000004