紹介に頼らずに依頼を受けようとすると、ホームページやGoogleマップ、紹介サイトを見た人からの問い合わせが入口になります。ところが、問い合わせが届いていても、返信が翌週になる、担当が決まらず誰も返していない、といった理由で相談に進まないまま終わることがあります。
問い合わせを依頼につなげるために事務所で決めることは、受け口を 1 つの一覧にまとめる、返信の時刻を決める、1 件ずつ記録する、3 か月後に同じ数え方で測り直すの 4 つです。以下、返信が遅れる仕組み、自分の事務所での数え方、返信の時刻と中身の決め方、落とし穴、測り直しの順に整理します。
1. 返信が遅れるのは、受け口と担当が決まっていないから
問い合わせの返信が遅れる事務所では、次のような状態が重なっています。
| 状態 | 起きること |
|---|---|
| 受け口が散らばっている | 電話・代表のメール・問い合わせフォーム・紹介サイト・SNS など、届く場所が多く、誰もすべてを見ていない |
| 担当が決まっていない | 「所長が見るだろう」「職員が返すだろう」と互いに思い、誰も返さない |
| 所長の確認で止まる | 返信の文面を所長が確かめるまで送れず、所長の予定が詰まると止まる |
| 繁忙期と重なる | 確定申告や年末調整、年度替わりの手続きの時期に、問い合わせが後回しになる |
| 記録が無い | 何件届いて何件返したかが分からないので、遅れていることに気づかない |
どれも、職員の心がけではなく仕組みの問題です。受け口を一覧にし、担当と時刻を決め、記録を残せば、同じ人数でも返信は早くなります。
2. まず、自分の事務所の問い合わせを数える
決まりを作る前に、直近 3 か月の問い合わせを数えます。数えることで、どの受け口から何件届き、最初の返信までにどれだけかかっているかが分かり、この後に決める返信の時刻の基準になります。
受け口の棚卸し
事務所に問い合わせが届く場所を、すべて書き出します。
| 受け口 | 届く先(通知が行くアドレス・電話) | 見ている人 | 直近 3 か月の件数 |
|---|---|---|---|
| 事務所の電話 | |||
| 代表のメールアドレス | |||
| ホームページの問い合わせフォーム | |||
| 紹介サイト・ポータルサイト | |||
| SNS のメッセージ | |||
| 既存の顧問先からの紹介 |
フォームや紹介サイトは、通知の届く先のアドレスまで確かめます。退職した職員のアドレスや、今は見ていないアドレスに届いていることがあります。ホームページに載せる連絡先の決まりは事務所のホームページに載せる情報で、Googleマップの連絡先の整え方はGoogleマップの記事で、紹介サイトに載せるときの確認点は紹介サイト・ポータルへの掲載で整理しています。
1 件ずつ記録する項目
問い合わせを 1 件 1 行で記録します。記録の項目は、後で数えたいことから逆算して決めます。
| 項目 | 書き方 |
|---|---|
| 受けた日時 | 電話は受けた時刻、メールやフォームは届いた時刻 |
| 受け口 | 棚卸しの表の受け口の名前 |
| 相談の種類 | 事務所の取り扱い業務の区分(例:顧問契約・年 1 回の申告・許認可・労務の相談) |
| 一次返信の日時 | 最初に人が返した時刻(自動返信は含めない) |
| 担当 | 一次返信をした人 |
| 結果 | 面談・依頼・他の相談先を案内・返事なし・対象外 |
過去の分は、メールの受信箱や電話のメモから分かる範囲で埋めます。分からない項目は空けておき、推測で埋めません。
数えたら見ること
- 受け口ごとの件数(どこから一番届いているか)
- 受けてから一次返信までの時間(中央の値と、一番長くかかったもの)
- 一次返信が営業日の翌日を越えた件数
- 結果が「返事なし」になった件の、一次返信までの時間
返信が遅れた件ほど「返事なし」が多ければ、返信の早さが依頼に効いていることが、自分の事務所の数字で確かめられます。
3. 返信の時刻と担当を決める
一次返信と本返信を分ける
問い合わせへの返信を、一次返信と本返信の 2 段に分けます。
| 一次返信 | 本返信 | |
|---|---|---|
| 目的 | 受け取ったことと、次に何をするかを伝える | 相談の日程や、引き受けられるかどうかを伝える |
| 返す人 | 受付の担当(職員でよい) | 所長や業務の担当 |
| 時刻 | 事務所で決めた時刻までに必ず返す | 一次返信で伝えた期限までに返す |
所長の確認が要るのは本返信だけにします。一次返信を職員が返せるようにしておけば、所長の予定が詰まっていても、問い合わせた人を待たせたままにしません。
返信の時刻は、守れる値から決める
返信の時刻は、たとえば「営業日の 15 時までに届いたものは当日中に、それ以降は翌営業日の正午までに一次返信する」のように、届いた時刻と返す時刻の組み合わせで決めます。前の節で数えた実績より少し早い程度から始め、3 か月後に測り直して詰めます。最初から守れない値を置くと、遅れた件の記録を付けなくなり、数字が当てにならなくなります。
営業時間外や休業日に届いた問い合わせの扱い(翌営業日の何時までに返すか)と、繁忙期に時刻を変えるかどうかも、先に決めておきます。繁忙期の業務の段取りは繁忙期の段取りで整理しています。
担当と代わりの人を決める
受け口ごとに、一次返信の担当と、担当が休みのときの代わりの人を決めます。「全員で見る」は、誰も見ないのと同じになりがちなので、名前で決めます。
受付の職員が答えてよい範囲
一次返信を職員が行う場合は、答えてよい範囲を決めておきます。税理士法第 2 条第 1 項第 3 号は、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずることを税理士業務としており、国税庁は、税理士業務の「業とする」は必ずしも有償であることを要しないと説明しています。職員が一次返信の中で税額の計算や手続きの判断に答えないよう、一次返信で書くことを次の節の範囲に限ります。無料相談で答える範囲の決め方は無料相談の設計で整理しています。
4. 返信に書くことと、個人情報の扱い
一次返信に書くこと
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 受け取ったこと | 問い合わせの内容を一言で繰り返し、受け取ったことを伝える |
| 担当者 | 一次返信をした人の名前と、本返信をする人 |
| 次にすること | 所長や担当が内容を確かめ、何をいつまでに連絡するか |
| お願いしたいこと | 本返信までに教えてほしいこと(期限のある手続きかどうか、希望の相談の形式など) |
| 取り扱っていない場合 | 事務所の取り扱い業務でないと分かっている場合は、その旨と相談先の案内 |
文面は、相談の種類ごとに型を作っておくと、担当が変わっても中身がそろいます。ただし、問い合わせの内容に触れない定型文だけでは、自動返信と変わりません。
個人情報の受け取り方
問い合わせのフォームやメールで受け取る氏名や相談の内容は、個人情報です。個人情報の保護に関する法律第 21 条第 1 項は、個人情報を取得した場合、あらかじめ利用目的を公表している場合を除き、速やかに利用目的を本人に通知し、又は公表しなければならないと定めています。ホームページのプライバシーポリシーに、問い合わせで受け取った情報の利用目的を書いておきます。
問い合わせの段階では、相談の見立てに必要な範囲の情報だけを受け取ります。行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(番号法)第 20 条は、法律で定める場合を除き、特定個人情報(マイナンバーを含む個人情報)を収集し、又は保管してはならないとしています。フォームやメールでマイナンバーを送ってもらわないよう、フォームの案内にも書いておきます。
守秘義務は、依頼の前からかかる
各士業法の守秘義務は、業務に関して知り得た秘密が対象で、依頼を受けたかどうかで区別していません(税理士法第 38 条、行政書士法第 12 条、社会保険労務士法第 21 条)。依頼に至らなかった問い合わせの記録も、見られる人・保存の期間・消し方を決めて扱います。事務所の情報の扱い全体は顧問先の情報の扱いで整理しています。
返信の後にお知らせを送る場合
問い合わせた人に、後から事務所のお知らせやセミナーの案内をメールで送る場合は、送ってよいかの同意を取ります。特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第 3 条は、広告や宣伝のためのメールを、あらかじめ同意した人など一定の人以外に送ることを禁じています。問い合わせへの返信そのものと、お知らせの送信は分けて考えます。セミナーからの相談の受け方はセミナーの記事で整理しています。
5. 実行するときの落とし穴
- 通知の届く先が古い:フォームや紹介サイトの通知先が、退職者や使っていないアドレスのままになっている。棚卸しのときに、実際にテストの問い合わせを送って届くか確かめます
- 迷惑メールに入っている:フォームからの通知が迷惑メールのフォルダに振り分けられる。受け口ごとに、どのフォルダに届くかを確かめます
- 記録が個人の受信箱にしか無い:担当者のメールで返信すると、事務所の記録に残らない。返信は共有の受け口から送るか、記録の表に必ず 1 行書く決まりにします
- 本返信の期限が守られない:一次返信で「〇日までに連絡します」と書いた期限を、所長の確認待ちで過ぎてしまう。本返信の期限も記録の項目に入れ、毎週の打ち合わせで期限切れがないか見ます
- 繁忙期に決まりを止める:忙しい時期に記録を止めると、一番問い合わせが増える時期の数字が残らない。時刻を緩めるのはよいですが、記録は止めません
6. 3 か月後に、同じ数え方で測り直す
決まりを始めて 3 か月たったら、第 2 節と同じ項目で数え直し、始める前の数字と比べます。
| 見ること | 始める前 | 3 か月後 |
|---|---|---|
| 問い合わせの件数(受け口ごと) | ||
| 一次返信までの時間(中央の値) | ||
| 決めた時刻を過ぎた件数 | ||
| 「返事なし」になった件数 | ||
| 面談・依頼に進んだ件数 |
数え方を途中で変えないことが大事です。数え方を変えると、よくなったのか、数え方が変わっただけなのかが分からなくなります。守れた時刻が続いていれば、次の 3 か月で時刻を詰めます。
問い合わせ対応のチェックリスト
- 問い合わせが届く受け口をすべて書き出し、通知の届く先を確かめた
- 直近 3 か月の問い合わせを、1 件 1 行で数えた
- 一次返信と本返信を分け、それぞれの担当と代わりの人を決めた
- 届いた時刻と返す時刻の組み合わせで、返信の時刻を決めた
- 営業時間外・休業日・繁忙期の扱いを決めた
- 職員が一次返信で答えてよい範囲を決めた
- 一次返信の型を、相談の種類ごとに作った
- プライバシーポリシーに、問い合わせで受け取る情報の利用目的を書いた
- フォームの案内に、マイナンバーを送らないよう書いた
- 記録の置き場所・見られる人・保存の期間を決めた
- 3 か月後に測り直す日を決めた
記録の表と、受け口の棚卸しの表の見本は、当サイトの資料で配っています。
7. まとめ
- 問い合わせの返信が遅れるのは、受け口が散らばり、担当と時刻が決まっていないという仕組みの問題
- 決まりを作る前に、直近 3 か月の問い合わせを受け口ごとに数え、一次返信までの時間を出す
- 返信は一次返信と本返信に分け、一次返信は職員が決めた時刻までに返す。所長の確認は本返信だけにする
- 職員が一次返信で税額の計算や手続きの判断に答えないよう、書くことを決めておく
- 問い合わせで受け取る情報の利用目的を公表し、マイナンバーは受け取らない。守秘義務は依頼の前からかかる
- 3 か月後に同じ数え方で測り直し、守れていれば時刻を詰める
法令や会則は改正されることがあります。決まりを作る前に、最新の条文と所属する会の案内を確認してください。
参考資料
- e-Gov法令検索「税理士法」第2条・第38条 https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237
- 国税庁「税理士制度のQ&A 6 税理士法違反行為」 https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishiseido/qa/06.htm
- e-Gov法令検索「行政書士法」第12条 https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000004
- e-Gov法令検索「社会保険労務士法」第21条 https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC1000000089
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」第21条 https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057
- e-Gov法令検索「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」第20条 https://laws.e-gov.go.jp/law/425AC0000000027
- e-Gov法令検索「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」第3条 https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0100000026