士業事務所の集客で、紹介に次いで検討されるのがセミナーと発信です。顧問契約や継続的な依頼は金額が大きく、依頼者は「この事務所に任せてよいか」を確かめてから相談に進みます。セミナーや記事は、契約前に事務所の考え方や説明の分かりやすさを見せる機会になります。

ただし、セミナーの告知文や当日の資料にも、士業の会則や規則が定める広告・勧誘の決まりが及びます。成果を断定する表現や、他の事務所との比較優位をあおる表現は、税理士会・社会保険労務士法・行政書士職務基本規則のいずれでも避けるべき対象です。

この記事は、セミナーと発信を相談につなげる企画の順番と、告知・資料で確認すべき決まりを整理します。


なぜセミナーと発信が相談につながるのか

税理士・社会保険労務士・行政書士の業務は、依頼者が契約前に中身を確かめにくいサービスです。料金表やホームページの実績だけでは、実際にどのような説明をしてくれるのか、質問にどう答えてくれるのかが伝わりません。

セミナーや記事は、契約の前に次を伝える機会になります。

  • 専門性:制度や手続きをどう説明するか
  • 姿勢:断定を避け、根拠を示しながら話すか
  • 相性:話し方や進め方が、依頼者の希望に合うか

紹介の場合は、紹介者の信用がそのまま事務所への信頼になります。セミナーと発信では、その信頼を事務所自身の説明で作る必要があります。だからこそ、内容だけでなく告知の表現にも注意が要ります。


テーマ選びと対象読者の絞り込み

対象読者を一つに絞る

「経営者向けセミナー」のように対象を広く取ると、告知文の的が絞れず、内容も総論にとどまりがちです。次のように、業種や状況を具体的に絞ります。

絞り方の例効果
「飲食店を経営する法人向け」業種特有の論点(原価管理・人件費など)に踏み込める
「今年、法人を設立した方向け」設立直後に必要な届出や記帳の話に集中できる
「従業員が10名を超えた事業者向け」就業規則や社会保険の整備という段階特有の論点に絞れる

テーマは、読者が今困っている問いに合わせる

セミナーのテーマは、事務所が話したいことではなく、読者が検索し、迷っている問いに合わせます。制度改正や届出の期限、繁忙期の準備など、時期が決まっている論点は、告知の理由づけがしやすく、参加の動機にもなります。


告知・資料で確認する決まり

セミナーの告知文・チラシ・当日の資料は、広告の一種として、各士業の会則・規則の対象になります。主なものを整理します。

資格根拠内容(要旨)
税理士税理士法第36条税理士たる者の信用又は品位を損なうような行為をしてはならない
税理士日本税理士会連合会会則第59条の2税理士の業務において、不当勧誘、不当広告、報酬額の不明示等その他相手方等の利益を害するおそれがある行為をしてはならない
社会保険労務士社会保険労務士法第16条社会保険労務士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない
行政書士行政書士法第10条誠実にその業務を行なうとともに、行政書士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない
行政書士行政書士職務基本規則第17条不当な目的を意図し、又は品位を損なうおそれのある広告宣伝(ホームページ、SNS等を含む)、事実に合致しない内容、誤認又は誤導のおそれのある内容、誇大な広告宣伝を行ってはならない

条文の言葉は資格ごとに違いますが、共通しているのは次の2点です。

  • 事実に合わないこと、誤解させることを書かない(「必ず節税になります」「確実に受給できます」のような断定)
  • 不安をあおったり、しつこく勧誘したりしない(「今すぐ相談しないと手遅れになります」のような表現)

行政書士職務基本規則第17条が「ホームページ、SNS等によるものを含む」と明記しているとおり、この決まりはチラシや対面の説明だけでなく、ブログの見出しやSNSの投稿文にも及びます。セミナーの告知文と、ブログ・SNSの文面を同じ基準で見直すとよいでしょう。


相談への導線を作る

セミナーや記事を読んでもらっただけでは、相談には進みません。次のような形で、個別相談への導線を意図的に作ります。

  1. 本編では一般論にとどめる:制度の仕組みや手続きの流れは説明するが、「自社の場合どう判断するか」は個別の論点として残す
  2. その場で相談の入口を示す:セミナーの最後に、個別相談の申込み方法を案内する(Webフォーム・その場での予約受付など)
  3. アンケートで希望を確認する:終了後のアンケートに「個別相談を希望しますか」の項目を入れ、希望者には日程調整の連絡をする
  4. フォローの連絡は日を置かない:関心が高いうちに連絡する

無料相談の時間や範囲の設計は、士業事務所の無料相談の設計で整理しています。セミナー後の相談も、同じ設計を使えます。


実行時の落とし穴

  • 1回のセミナーにテーマを詰め込みすぎる:対象読者がぼやけ、告知文も総論になる
  • セミナーだけで完結させてしまう:本編で個別の判断まで答えてしまうと、相談に進む理由がなくなる
  • 告知文で成果を断定する:「必ず」「確実に」といった表現は、各士業の広告規定に触れるおそれがある
  • フォローが遅れる:参加者の関心は時間とともに下がる。アンケートの回収から連絡までの流れをあらかじめ決めておく
  • 発信とセミナーで基準が違う:ブログやSNSの文面は緩く書いてしまいがちだが、広告規定は媒体を問わず及ぶ

企画のチェックリスト

  • 対象読者を、業種や状況で具体的に絞った
  • テーマを、読者が今検索している問いに合わせた
  • 告知文・資料に、成果を断定する表現や不安をあおる表現がない
  • 本編は一般論にとどめ、個別の判断を相談に誘導する構成にした
  • 終了後のアンケートに、個別相談の希望を聞く項目を入れた
  • フォローの連絡を、いつ・誰が行うか決めてある
  • ブログ・SNSの文面も、セミナーの告知文と同じ基準で見直した

まとめ

  • セミナーと発信は、契約前に事務所の専門性と姿勢を伝える機会になる。紹介と違い、その信頼を事務所自身の説明で作る必要がある
  • テーマは対象読者を絞り、読者が今困っている問いに合わせる
  • 告知文・資料には、税理士会・社会保険労務士法・行政書士職務基本規則が共通して禁じる、事実に合わない断定的な表現や不安をあおる表現を避ける
  • 本編は一般論にとどめ、個別相談への導線をあらかじめ設計しておく。この基準はブログ・SNSの発信にも及ぶ

セミナーで話した個別の論点をどこまで無料相談で扱うかは、士業事務所の無料相談の設計で扱っています。ホームページに載せる情報の決まりは士業事務所のホームページに載せる情報、Googleマップの整え方は士業事務所のGoogleマップの整え方で整理しています。

参照した資料

条文や規則は改正されることがあります。告知文・資料を作る前に、所属する会の最新の会則・規則を確認してください。