補助金の事業計画書づくりを顧問先から頼まれたとき、事務所が書いて事業者に渡すやり方は、いまの補助金ではほぼ通用しません。ものづくり補助金の第23次公募要領は、申請者自身が内容を理解・確認して申請することを求め、一定の基準を満たした事業者には代表者 1 名だけが受ける口頭審査を行い、事業計画書作成支援者やコンサルタントの同席を一切認めないとしています。事業者が自分の計画を自分の言葉で説明できなければ、審査を通りません。

さらに、令和8年1月1日に施行された改正行政書士法第19条は、行政書士でない者がいかなる名目によるかを問わず報酬を得て官公署に提出する書類を作成することを制限すると条文に明示しました。事業計画書の作成支援は、事業者が書き、事務所は聞き取り・数字の根拠・読み返しで支える形が基本になります。以下、事務所の役割の分け方、公募要領で押さえる決まり、一緒に書く 6 つの手順、数字の根拠の確かめ方、落とし穴、事務所で測る数字の順に整理します。


1. 事務所は「書き手」ではなく「聞き手と確かめ役」

事業計画書の作成支援で事務所が担う作業と、事業者が担う作業を分けると、次のようになります。

作業担う人中身
公募要領・審査項目を読む事業者と事務所何が求められているかを一緒に確かめる
材料を出す事業者現状、課題、やりたいこと、見積書、数字
聞き取る・整理を手伝う事務所質問で材料を引き出し、抜けを指摘する
本文を書く事業者自分の言葉で書く
数字の根拠を確かめる事務所決算書・月次の数字と照らす
読み返して質問で返す事務所審査項目の抜け、根拠の弱いところを指摘する
申請する事業者GビズIDプライムで自分で申請する

経営の状況の分析や事業計画への助言は、どの士業の独占業務でもありません。一方で、報酬を得て申請書類そのものを作成することは行政書士の業務で(行政書士法第1条の3・第19条)、行政書士でない事務所が引き受けると制限に当たるおそれがあります。資格ごとに受けられる範囲は補助金と助成金の申請支援の業際の記事で整理しています。

この分け方は、業際のためだけではありません。事業者が自分で書いた計画は、口頭審査で説明でき、採択後の交付申請・実績報告・事業化状況報告まで事業者自身が回せます。事務所が書いた計画は、採択のあとで事業者が止まります。

2. 公募要領で押さえる 5 つの決まり

ものづくり補助金の第23次公募要領(2026年2月6日)には、事業計画書について次の決まりがあります。補助金ごとに決まりは違うので、支援する制度の公募要領で同じ項目を確かめます。

決まり公募要領の記述(要旨)
申請者自身による申請申請者自身が内容を理解し、確認のうえ、申請者自身が申請する。正当な事由なく申請者自身による申請と認められない場合は不採択
分量と形式本文は電子申請システムに入力し、補足の図や画像は番号を振って A4 サイズ 5 ページ以内の PDF にまとめる。5 枚を超える PDF や、本文を入力せず PDF で添付したものは審査の対象外。空白のページも 1 枚と数える
支援者の申告認定経営革新等支援機関などの外部支援を受けている場合、事業計画書作成支援者の名称・支援内容・報酬・契約期間を必ず申告。申告していないことが明らかになった場合は、不採択・採択決定取消し・補助金返還・公表などの対象
計画の流用の禁止他の事業者と同一・類似した内容の事業は対象外。故意または重過失で申請すると次回以降の申請ができなくなる。支援者が故意または重過失で主導した場合、その支援者が関与した申請を受け付けない可能性がある
口頭審査一定の基準を満たした事業者に、オンラインで 30 分程度の口頭審査を行う。対応は申請事業者自身(法人代表者)1 名で、事業計画書作成支援者・経営コンサルタント・社外顧問などの同席は一切認めない

計画の流用の禁止は、事務所の進め方に直接かかわります。ほかの顧問先の計画書をひな形にして言葉を差し替える進め方は、同一・類似の内容と見られるおそれがあり、支援者として関与した申請が受け付けられなくなる可能性まであります。事務所で共有してよいのは、審査項目の読み方と、聞き取りの質問までです。

3. 事業者と一緒に書く 6 つの手順

手順 1:公募要領と審査項目を一緒に読む

最初の打ち合わせで、公募要領の「事業計画書への記載事項」「事業計画書作成のポイント」「審査項目」を事業者と一緒に読みます。第23次公募要領の「事業計画書作成のポイント」は、次の内容を求めています。

  • 自社の現状と外部環境・内部環境の分析、それを踏まえた中長期のビジョンと、抱えている課題
  • 課題の解決策と、この事業に取り組まなければならない理由、設備投資が必要な理由
  • 設備投資の内容(型番など)、取組の内容、成果の目標、達成の手段(実施能力・体制・スケジュール)
  • 想定するユーザー・市場・市場規模と、価格や性能の優位性
  • 事業化の見込み(時期・売上の規模・価格)と、運転資本の調達計画
  • 付加価値額などの目標値の算出根拠

この一覧を、そのまま事業計画書の目次として事業者に渡します。何を書けばよいかが見えると、事業者は自分で書き始められます。

手順 2:聞き取りシートで材料を集める

事業者に白紙から書いてもらうのではなく、事務所が質問を並べた聞き取りシートを用意し、答えを箇条書きで書いてもらいます。

項目質問の例
現状売上の柱は何か。この 3 年で増えた・減った売上は何か
外部環境取引先や市場で、この 1〜2 年に何が変わったか
内部環境自社にしかできないことは何か。人手や設備で足りないものは何か
課題その変化に対して、いまのままだと何が起きるか
取組何を買い、何を作り、誰に売るのか。なぜいまなのか
体制誰が担当し、いつまでに何を終えるのか
数字取組で売上・原価・人件費がどう変わるか。その見込みの根拠は何か

聞き取りは、事務所が質問し、事業者が答える打ち合わせで進めてもかまいません。その場合も、答えの言葉は事業者のものを残し、事務所が言い換えて文章にしないようにします。

手順 3:事業者が自分の言葉で下書きを書く

聞き取りシートの答えをもとに、事業者が手順 1 の目次に沿って下書きを書きます。文章のうまさは問いません。審査は記載の分量ではなく中身を見るので、具体的な事実と数字が入っているかが大事です。

下書きの期限は、公募の締切から逆算して決めます。読み返しと直しに最低 2 往復かかるので、締切の 3 週間前には最初の下書きがそろっている段取りにします。

手順 4:事務所が読み返し、質問で返す

事務所は下書きを書き直さず、質問で返します。赤字で文章を直すと、事業者の言葉が事務所の言葉に置き換わり、口頭審査で説明できない計画になります。

返す質問の例は次のとおりです。

  • 「この売上の見込みは、どの取引先の、どの話をもとにしていますか」
  • 「審査項目の『市場規模』に当たる記述が見当たりません。どこかで数字を持っていますか」
  • 「この設備でなければならない理由を、ほかの方法と比べて書けますか」
  • 「スケジュールに交付決定の時期が入っていません。発注はいつの予定ですか」

質問は、審査項目の順に並べた表にして返すと、事業者がどこを直せばよいかが分かります。

手順 5:事業者が直す

事業者が質問に答える形で下書きを直します。直しのたびに版を分けて残し、誰がいつ何を直したかが分かるようにしておきます。支援者の申告に書く「支援内容」を、あとから正確に書けるようにするためです。

手順 4 と 5 を 2〜3 往復したら、分量(ものづくり補助金なら本文の入力と A4 で 5 ページ以内の補足資料)と、空白のページが入っていないかを確かめます。

手順 6:事業者が口頭で説明できるかを確かめる

仕上げに、事業者に計画書を見ずに計画を説明してもらいます。事務所は審査員の役で、手順 4 と同じ質問をします。答えに詰まったところは、計画書の中身が事業者の中に入っていないところです。そこに戻って手順 4 と 5 をやり直します。

口頭審査があるかどうかは制度によって違いますが、説明できない計画は採択後に回らないので、口頭審査の無い制度でもこの手順は省きません。

4. 数字の根拠を確かめる

事務所がいちばん力を出せるのは、数字の根拠の確かめです。顧問先の決算書と月次の数字を知っているのは事務所の強みです。

付加価値額の計算を確かめる

第23次公募要領は、付加価値額を営業利益・人件費・減価償却費を足したものと定め、事業計画期間(補助事業終了後 3〜5 年)で年平均成長率 3.0% 以上の目標値を申請者自身で設定することを基本要件にしています。事務所は、次の点を事業者と一緒に確かめます。

  • 起点の年の付加価値額が、直近の決算書の営業利益・人件費・減価償却費と合っているか
  • 目標値が、過去の決算の推移と比べて無理のない水準か
  • 設備投資による売上・原価・人件費の変化の見込みに、取引先の話や見積もりなどの根拠があるか
  • 減価償却費の増加分だけで付加価値額が増えたように見えていないか

公募要領は、事業計画で示した数値を補助事業の終了後も毎年度の事業化状況等報告で確認するとしています。無理な目標は、採択されたあとの報告で事業者を苦しめます。

給与と最低賃金の目標を確かめる

第23次公募要領は、1 人あたり給与支給総額(年平均成長率 3.5% 以上)と事業所内最低賃金(都道府県の最低賃金より 30 円以上高い水準)の目標値も申請者自身で設定し、交付申請時までに従業員に表明することを求めています。どちらも目標値に届かなかった場合は補助金の返還を求めるとしており、表明していなかった場合は交付決定取消しと返還の対象です。

事務所は、人件費の見込みが付加価値額の計画と矛盾していないか、給与の計画が 3〜5 年の資金繰りに耐えられるかを、事業者と一緒に確かめます。給与支給総額の数え方(役員報酬・法定福利費・退職金を除く、全月分の支給を受けた従業員で数える など)も公募要領に定めがあるので、顧問先の給与台帳で起点の数字を出してみます。

資金繰りを確かめる

補助金は後払いです。採択から入金までは事業者が立て替えて支払うので、自己負担分と立替の期間の資金の手当てを計画の段階で確かめます。進め方の全体は補助金の申請支援の進め方の記事で扱っています。

5. 支援の範囲を契約と申告にそろえる

一緒に書く手順を決めたら、支援の契約にそのまま書きます。

項目契約に書くこと
支援の範囲公募要領の読み合わせ、聞き取り、数字の根拠の確かめ、読み返しと質問(何往復まで)
担わないこと本文の作成、電子申請の操作、事務局との窓口
期間申請までか、交付申請・実績報告・事業化状況報告まで含むか
報酬料金体系と支払時期。公募要領の申告にそのまま書ける形
資料の扱い決算書・見積書・下書きの受け渡しと保管の方法

第23次公募要領は、料金体系・支援内容・支援期間が明らかでない契約や、申請者が理解しない内容のまま申請することを、不適切な支援の例に挙げています。契約の中身と、申告する支援内容と、実際にした作業の 3 つがそろっていることが大切です。

6. 落とし穴

  • 事務所が下書きを書いてしまう:口頭審査で事業者が説明できず、採択後の手続きも回りません。業際の問題にもなります
  • 赤字で文章を直す:事業者の言葉が事務所の言葉に置き換わります。直しは質問で返します
  • ほかの顧問先の計画書をひな形にする:同一・類似の内容と見られるおそれがあり、支援者として関与した申請が受け付けられなくなる可能性があります
  • 目標値を採択のために高く置く:数値は毎年度の報告で確認されます
  • 分量の決まりを最後に確かめる:5 ページを超えた PDF や空白のページで、審査の対象外になることがあります
  • 支援の申告を忘れる:申告していないことが明らかになると、不採択や採択決定取消しの対象です

7. 事務所で数えて、半年ごとに測り直す

一緒に書く手順を事務所の決まりにしたら、支援した案件ごとに次の 3 つを数えます。

数えるもの数え方
最初の下書きがそろった日締切の何日前に、事業者の下書きがそろったか
読み返しの往復質問で返して事業者が直した回数
説明の確かめ手順 6 で、事業者が計画書を見ずに説明できた項目の割合

半年後に同じ数え方で測り直し、締切の 3 週間前に下書きがそろった案件の割合と、手順 6 で説明できた項目の割合が上がっているかを見ます。下書きがそろうのが遅いときは、手順 2 の聞き取りシートの質問が事業者に答えにくい形になっていないかを見直します。

測り直しの前に、次の点を確かめておきます。

  • 支援する制度の公募要領で、申請の主体・分量・支援者の申告・流用の禁止・口頭審査を確かめた
  • 公募要領の審査項目を目次にして、事業者に渡した
  • 聞き取りシートの答えの言葉を、事業者のもののまま残した
  • 下書きを書き直さず、質問で返した
  • 付加価値額の起点の数字を、直近の決算書と照らした
  • 事業者が計画書を見ずに説明できるかを確かめた
  • 契約の支援内容と、申告する支援内容と、実際の作業がそろっている

補助金の決まりは公募回ごとに改訂されます。支援の前に、その回の公募要領と所管官庁の最新の案内を確認してください。

8. まとめ

  • 事業計画書の作成支援は、事業者が書き、事務所は聞き取り・数字の根拠・読み返しで支える形が基本です
  • ものづくり補助金の第23次公募要領は、申請者自身による申請、A4 で 5 ページ以内、支援者の申告、計画の流用の禁止、代表者 1 名だけの口頭審査を定めています
  • 手順は、公募要領を一緒に読む → 聞き取り → 事業者の下書き → 質問で返す → 事業者が直す → 口頭で説明できるかを確かめる、の 6 つです
  • 付加価値額は営業利益・人件費・減価償却費の合計で、目標値は事業者自身が設定し、採択後も毎年度確認されます
  • 締切の 3 週間前に下書きがそろった割合と、説明できた項目の割合を半年ごとに測り直します

参考資料